交通事故によってお怪我をされたケースで、治療のために整骨院に通院している、あるいは整骨院への通院を検討しているという方もいらっしゃると思います。
今回のコラムでは、整骨院への通院に関してご注意いただきたいことについて、解説させていただきます。

裁判において、整骨院での施術費の賠償請求が認められるためには、医学的見地から見て、施術の必要性、施術の相当性があること等が必要とされています。
整骨院での施術について医師の指示がある場合には、こうした施術の必要性、施術の相当性が肯定されやすいのですが、医師の指示がない場合には、施術の必要性、施術の相当性について具体的な主張・立証が求められます。
そして、この主張・立証が十分に尽くされなければ、整骨院での施術費の全額または一部の賠償請求が通らないこともあるのです。
こうした理屈を踏まえて、保険会社が治療段階で整骨院での施術費を支払う条件として、施術の必要性、施術の相当性が記載された医師の診断書の提出を求めるといった対応が取られることもあります。

ここで注意が必要なのは、保険会社が治療中の段階では整骨院への通院を認め、施術費を支払ってきたにもかかわらず、裁判が提起されると施術費の賠償請求を争ってくるケースが近年少なくないという点です。
裁判において、施術の必要性、施術の相当性の主張・立証が不十分とされてしまうと、保険会社から整骨院に支払われた施術費分の金額が交通事故による相当な損害とは認められず、休業損害や慰謝料から差し引かれて、手元に残る賠償金の額が目減りしてしまうというリスクがあります。

整形外科・整骨院での治療が終了して弁護士が示談交渉に臨む段階に来て、保険会社が整骨院での施術費の賠償請求を認める前提で、慰謝料を裁判基準の8割や9割で提示してきたケースを想定してみましょう。
当事務所としては、裁判基準での満額賠償を基本方針としているため、満額賠償を求めて裁判提起に踏み切りたいところです。
しかし、例えば、下記イメージのように、裁判を提起することで慰謝料が12万円増額できる見通しであったとしても、整骨院での施術費30万円が否定されてしまうリスクがあればどうでしょうか。
このケースであれば、裁判を提起して慰謝料の満額賠償を目指すことを躊躇するのが通常です。
そして、施術の必要性、施術の相当性の主張・立証については、医師が協力的ではないなどの要因で、ハードルが高いケースが少なくありません。
その結果、示談交渉で裁判基準よりも低い金額の慰謝料で妥協しなければならないことも起こり得ます。

(整骨院での施術費が裁判で否定されるリスクのイメージ)

損害項目 示談交渉段階での提示額 訴訟提起で認められた賠償額
①整形外科での治療費 50万円 50万円
②整骨院での施術費 30万円 0円
③通院交通費 2万円 2万円
④休業損害 10万円 10万円
⑤傷害慰謝料

48万円
(裁判基準の8割)

60万円
(裁判基準の満額)

⑥既払い額

▲80万円
(①+②)

▲80万円
(①+②)

差引賠償額 60万円 42万円

このケースでは、裁判を提起したことで逆に手元に残る差引賠償額が少なくなってしまった。

当事務所のスタンスとしては、整骨院での正当な施術が妨害されることがあってはならないとの考えですが、整骨院への通院については、上記のようなリスクが存在することを踏まえて、慎重に検討するべきであろうと考えております。

【関連Q&A】
●整骨院での施術費を請求することはできますか?

(弁護士・木村哲也)

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