当事務所では、交通事故の被害に遭われた方々からのご相談・ご依頼を多数いただいております。
その中で、加害者が高齢者である交通事故において、なぜそのような事故が起きたのか、にわかに信じがたい印象を受けるケースもあります。
最近の高齢ドライバーによる交通事故の事案としては、90歳の女性が運転する乗用車が、赤信号を無視して突っ込み、1人が死亡、3人が重軽傷を負った交通事故は、大きく報道されました(平成30年5月・神奈川県)。
また、85歳の男性が運転する乗用車が、対向車線にはみ出し、民家の塀に衝突した後、自転車で通学中の高校生2人に衝突した交通事故もまた、高齢ドライバーによる交通事故として大きく報道されました(平成30年1月・群馬県。高校生2人は意識不明の重体で病院に運ばれ、1人は発生から3週間後に死亡する事態となりました)。
「赤信号と分かっていたが、誰も横断歩道を渡り始めていなかったので、行けると思った」(上記の90歳女性の供述)、「気が付いたら事故を起こしていた」(上記の85歳男性の供述)といった高齢ドライバーの供述が報道され、尊い命が奪われた悲惨な交通事故において、にわかに信じがたい加害者の供述に憤りを覚えた方もいらっしゃるかと思います。
急速に高齢化が進む我が国で、高齢の運転免許保有者の数も増加しており、高齢ドライバーの交通事故対策は喫緊の課題となっています。
「平成29年交通安全白書」によれば、75歳以上のドライバーによる死亡事故件数は、75歳未満のドライバーと比較して、運転免許人口10万人当たりの件数が2倍以上多く発生しています。
また、死亡事故件数全体が減少する中で、全体に占める75歳以上のドライバーによる死亡事故の割合は、上昇傾向にあります。
高齢ドライバーの特性については、一般的に次のようなことが指摘されており、交通事故を起こしやすい要因として考えられます。
・視力等が弱まることで周囲の状況に関する情報を得にくくなり、判断に適切さを欠くようになること。
・反射神経が鈍くなること、瞬間的な判断力が低下していること等によって、とっさの対応が遅れること。
・過去の経験にとらわれていたり、運転が自分本位になっていたりして、交通ルールに従った安全運転を怠っていること。
平成29年3月に施行された改正道路交通法では、75歳以上のドライバーに対する認知機能検査が強化され、免許更新時に認知機能検査が行われることとなりました。
そして、「認知症の恐れ」と判定された人は、無事故・無違反でも医師の診断を受けることが義務付けられました。
また、信号無視やウインカーの出し忘れなどの違反をすると、臨時の認知機能検査が課されることとなりました。
平成29年は、運転免許証の自主返納制度が始まって以来、過去最大の自主返納人数となりました。
しかし、それでも、運転免許証を自主返納したのは、75歳以上のドライバー全体の5%程度にすぎません。
家族が「車を運転しないように」と忠告していたにも関わらず、本人が聞き入れずに運転して交通事故を起こしたという事件も報道されていますし、アクセルとブレーキの踏み間違えによる暴走や高速道路の逆走など、被害者にとって予測不能な高齢ドライバーによる交通事故が多発しているのが現実です。
高齢ドライバー本人も、そのご家族も、この現実を直視して、加害者にならないための運転免許証の自主返納について、真剣に話し合い、検討する必要があると思います。
このことは、交通事故被害者やそのご家族の苦しみ、悲しみに触れてきた者として、切に願うところです。
(弁護士・山口龍介)