2020年4月施行の民法改正により、法律で定められている利率が見直されました。
これにより、交通事故の損害賠償請求をする際に、以下の影響が生じてくることとなります。


1 見直された法定利率について

民法改正前は、利息が年5パーセントと一律に利率が定められていました。
もっとも、民法改正によって利率は、以下のように、一定期間ごとに利率が変動することとなりました。
2020年4月1日から3年間は年3パーセント。
3年経過以降は、3年ごとに市中金利の動向に合わせて、利率を変動させる。
変動させる利率は、過去5年間の平均利率等をもとに算出し、1パーセント以上の利率の変動があったと認められる場合のみ見直される。利率の変動が1パーセント未満の場合には、前の期の法定利率がそのまま維持される。

そのため、緩やかな利率の変動制が採用されたといえるでしょう。

法定利率が年5パーセントというのは、従来から市中金利よりも高額であると指摘されていたので、社会の実情に沿うように改正されました。
今後の経済情勢にもよりますが、市中金利が上昇・下降した場合には、法定利率も変動してくることとなるため、注意が必要です。
以下では、法定利率が年3パーセントであることを前提として、影響が生じる損害項目ごとに、どのような影響が出るかをご説明いたします。

2 損害賠償への影響

 ⑴ 遅延損害金

通常、交通事故の損害賠償請求を裁判で行う場合には、交通事故の日を起算日として、遅延損害金を請求していきます。
遅延損害金の利率も法定利率と同じ利率とする旨定められています。
そのため、民法改正によって遅延損害金の利率が年5パーセントから年3パーセントに引き下げられると、損害賠償請求で認められる遅延損害金の金額が、従来よりも低くなります。

 ⑵ 逸失利益

交通事故により、後遺障害が残ってしまった場合や、死亡してしまった場合には、損害賠償請求の損害項目として逸失利益が認められます。
この逸失利益とは、本来(将来的に)得られたはずの収入が、後遺障害や死亡によって失われたことによる損害のことをいいます。
逸失利益を算定するにあたっては、将来得られたはずの収入を現在受領することになるため、その金銭により資産運用をして得られるであろう利息分を、将来得られる収入から差し引いて計算します(これを中間利息の控除といいます)。
民法改正によって、法定利率が年5パーセントから年3パーセントに引き下げられることにより、控除される利息の金額も低くなります。
そのため、損害賠償請求で認められる逸失利益の金額は、従来より高くなります。

 ⑶ 損害賠償請求の総額について

以上で述べたように、民法改正により認められる遅延損害金の金額は低くなるのに対して、逸失利益の金額は高くなります。
この点、遅延損害金の減額分に対して、逸失利益の増額分の方が高額となるので、民法改正によって、認められる損害賠償請求の総額は、従来よりも高くなります。
したがって、交通事故被害者にとって、有利な法改正であるといえます。

 ⑷ 民法改正後の法定利率の適用時期について

民法改正は、2020年4月1日から施行されていますが、遅延損害金・逸失利益の算定をするにあたっては、以下のようなルールによることとなります。

2020年3月31日以前の交通事故は、改正前の年5パーセントの利率が適用され、この利率をもとに遅延損害金・逸失利益が算定される。
2020年4月1日以後の交通事故は、改正後の年3パーセントの利率が適用され、この利率をもとに遅延損害金・逸失利益が算定される。

交通事故が2020年3月31日以前に発生し、その解決が2020年4月1日以後になったとしても、遅延損害金は民法改正前の年5パーセントを前提に算定されることとなります。

(弁護士・木村哲也)

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