1 加害者本人に対する直接請求は控えましょう
加害者が自動車保険に入っている場合に、保険会社がこちらの要求に応じてくれないからといって、加害者本人に対して直接請求をすると、加害者側に弁護士を立てられるなどして、より対応が硬直化する可能性があります。
そして、加害者側に弁護士を立てられたときに、弁護士の頭越しに加害者本人に直接請求をすると、不法行為(民法709条)として逆に損害賠償の責任を負わされるなどのリスクがあります。
そのため、加害者が自動車保険に加入している場合には、加害者本人に対する直接請求は基本的にやってはいけません。
2 保険会社の示談代行サービスについて
交通事故を起こしたときに、被害者に対して損害賠償の責任を負うのは加害者本人です。
しかし、加害者が自動車保険に加入している場合には、示談交渉の窓口となるのは保険会社です。
これは、自動車保険(の対人・対物賠償責任保険)には、示談代行サービスというものが付いているからです。
示談代行サービスとは、交通事故を起こした人の代わりに、保険会社が被害者との示談交渉を代行してくれるサービスです。
このような示談代行サービスにより、加害者本人としては、保険会社に示談交渉および損害賠償金の支払を任せておけばよく、自ら窓口となって示談交渉を進めたり、自腹を切って損害賠償金を支払ったりする法的義務がないということになります。
3 加害者本人の誠意・謝罪にこだわることは得策ではありません
ここで、交通事故の被害者の立場としては、「加害者本人に誠意が見られない」、「保険会社任せにしていて、加害者本人からは一度も連絡がない」、「加害者本人がなぜ謝罪してこないのか?」と憤りを感じることもあるものです。
しかし、上記のように、自動車保険に加入している場合には、示談代行サービスがありますから、加害者本人としては、自ら被害者と直接交渉を行わないのが基本となります。
また、法律上、誠意・謝罪の義務というものは定められていません。
そして、損害賠償金を支払う保険会社としては、加害者本人が被害者に対して謝罪をするくらいならともかく、加害者本人が被害者との間で損害賠償に関する約束を勝手にしてしまって、それが後々保険会社で支払うことができないとなった場合に、揉めに揉めてしまう可能性がありますから、「被害者の方への対応は、すべて弊社にお任せいただければ大丈夫です」と加害者本人に説明することとなるのです。
そのため、保険会社任せとなることは、ある程度仕方のないことであると言えますし、加害者本人の誠意・謝罪の問題は、法律で解決することはできません。
4 加害者本人に対して直接請求することのデメリット
以上のように、加害者本人が自動車保険に加入している場合には、保険会社が示談交渉および損害賠償金の支払を担うことになります。
しかし、保険会社がこちらの要求に応じてくれないとなった場合に、「それなら、加害者本人に直接請求しよう」とお考えになる方もいらっしゃいます。
この点、被害者が加害者本人に対して直接請求を行うこと自体を法律が禁じているわけではないのですが、このような行動には大きな問題があります。
まず、このような形で直接請求を受けた加害者本人の立場としては、損害賠償金は全額保険会社が支払うものであり、そのために自動車保険に加入しているのですから、「保険会社に任せていますので、保険会社に連絡してください」とだけ答え、話し合いには応じないという対応になるのが通常です。
中には無視する人もいるでしょう。
そして、保険会社からは、「弊社が示談交渉の窓口ですので、話し合いは加害者本人ではなく、弊社で進めさせていただきます」という趣旨の連絡が入ることになります。
さらに、それでも加害者本人に対する請求を継続すると、保険会社だけでは対応が困難な事案と判断され、加害者側が弁護士を立ててくることになるでしょう。
加害者側に立った弁護士からは、「今後は加害者本人に対する直接連絡はお控えいただき、すべて加害者の代理人である弁護士宛てにご連絡いただくようにお願いいたします」などと記載された書面が届くなどの連絡があります。
このように加害者側に弁護士が介入することにより、保険会社のもとではある程度柔軟に対応できていたものが、硬直化した対応となることもあり得ます。
そして、加害者側に弁護士が介入してもなお、弁護士の頭越しに加害者本人に直接請求をすると、不法行為(民法709条)として逆に損害賠償の責任を負わされるなどのリスクがあります。
弁護士を立てて代理交渉を任せることは法的な権利であり、弁護士の頭越しに直接請求を行うことは違法であると判断した裁判例もありますので、注意が必要です。
6 結論
以上から、加害者が自動車保険に加入している場合には、加害者本人に対する直接請求はしないようにしましょう。