治療中(症状固定前)に事故とは無関係の理由で死亡した場合であっても、後遺障害が残ることがはっきりしているのであれば、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。
非常に稀ではありますが、交通事故のあと、被害者が治療中(症状固定前)に、別の病気・自死など、事故とは無関係の理由で亡くなってしまうことがあります。
このような場合には、後遺障害が残ることが想定されたとしても、後遺障害等級の認定が確定していたわけではないとして、保険会社が後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の賠償を否認してくることがあります。
このような場合に、本来であれば後遺障害が残っていたはずであると主張し、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することは可能なのでしょうか?
この点、過去の裁判例では、否定例と肯定例があります。
後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の請求が肯定された例は、仮に事故とは無関係の理由で死亡していなければ、後遺障害が残っていた可能性が高かったと認められるケースです。
例えば、上肢・下肢の切断・短縮障害が発生していれば、治療中(症状固定前)であったとしても、「本来であれば、後遺障害〇級が認定されていたはずである」と想定することは容易ですし、脳挫傷等の重度の傷害による遷延性意識障害の状態であれば、1級1号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に相当する後遺障害が残っていた可能性が高かったと判断されるでしょう。
このように、治療中(症状固定前)に事故とは無関係の理由で死亡した場合であっても、後遺障害が残ることがはっきりしているのであれば、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。
これに対し、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の請求が否定された例は、仮に事故とは無関係の理由で死亡していなかったとして、果たして後遺障害が残っていたかどうか、そしてその後遺障害の程度が不明である、というケースです。
例えば、頚椎捻挫、腰椎捻挫のように、レントゲンやMRIの画像所見が認められにくい傷害については、このまま治療を継続していたとしても、本当に後遺障害が残っていたかどうかが不明である、ということが多いように思われます。
このように、後遺障害の有無、程度がはっきりしないという場合には、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することは困難であると考えられます。