死亡事故による損害賠償請求の権利は、被害者が亡くなったことにより各法定相続人が法定相続分に従って相続することとなります。
その際に、寄与分を考慮して具体的な相続分(相続額)を計算することは、行われないのが原則です。
ここで、寄与分とは、特定の法定相続人が被相続人の財産の形成・維持に貢献した場合に、遺産分割において、その法定相続人がより多くの遺産を受け取ることができる制度のことを言います。
この点、現金・預貯金・不動産などの遺産分割の際には、寄与分を考慮して具体的な相続分(相続額)の算定が行われます。
しかし、死亡事故による損害賠償請求は、治療費・葬儀費用などの実費のほかは、死亡慰謝料・死亡逸失利益などで構成されます。
このような損害賠償請求の権利は、現金・預貯金・不動産などの遺産とは異なり、特定の法定相続人の寄与により形成・維持が図られるという性質のものではありません。
そのため、寄与分を考慮して具体的な相続分(相続額)を計算するという考え方にはなじまないと言えます。
また、死亡事故による損害賠償請求の権利は、金銭を請求することのできる債権です。
このような金銭債権は、現金と同視すべき預貯金(預貯金も、金融機関に対して払戻を請求することのできる権利であるという意味で、金銭債権の一種ということになります)を除いては、法律上、遺産分割の対象外とされるのが原則です。
そして、寄与分は、遺産分割におけるルールです。
そのため、死亡事故による損害賠償金については、遺産分割の枠組みで適用されるべき寄与分の制度の対象外であると考えられているのです。
もっとも、遺族固有の慰謝料については、被害者と同居して世話をしてきたのであれば、他の法定相続人よりも高く算定される可能性があります。
ただし、遺族固有の慰謝料は、そもそもの金額があまり高額にはならないため、他の法定相続人よりも多く受け取ることができるとしても、差を付けられるのは50万円ないし300万円程度が限度であろうと思われます。
>>>近親者固有の慰謝料・遺族固有の慰謝料とは?
なお、他の法定相続人との話し合いで、寄与分を考慮して法定相続分を超える損害賠償金を受け取ることを承諾してもらえるのであれば、他の法定相続人よりも多くの損害賠償金を取得することができるでしょう。
しかし、これはあくまでも他の法定相続人から任意の承諾を得られればの話であり、拒否されてしまえば、強制的に法定相続分を超える損害賠償金の受領を可能とする法的な根拠はありません。