労働能力喪失率は、1級の100%から14級の5%まで、後遺障害等級ごとに目安となる数値が定められています。
しかし、これはあくまで目安の数値であり、後遺障害の部位・程度、年齢、職業、事故前後の稼働状況等の事情を考慮し、個別具体的に判断されます。
そして、職業は、労働能力喪失率の重要な判断要素の一つです。
仕事の内容によって必要となる労働能力が異なり、後遺障害による支障の内容・程度も変わってくると考えられるためです。
例えば、交通事故により足に後遺障害を残した場合を想定します。
この場合、同じ後遺障害であっても、職業により業務に対する影響は全く異なってくることがあります。
具体的には、被害者が事務職員の場合には、ほとんど事故前と同じように働けるかもしれません。
一方で、被害者が建設・土木作業員の場合には、現場作業において極めて重大な支障を被るかもしれません。
この場合、建設・土木作業員の方が、労働能力喪失率が高いと考えられます。
このように、被害者の職業を考慮して通常の場合よりも高い労働能力喪失率を認めた裁判例も数多く存在します。
【甲府地方裁判所平成17年10月12日判決】
眼科医(女性・症状固定時33歳)の頚部痛・後頭部痛・眼精疲労・左手の振戦(14級9号)について、左手の振戦のために手術ができなくなり、研究職に転向せざるを得ず、従前のアルバイト収入が得られなくなったことから、10年間12%の労働能力喪失を認めた(14級の目安は5%)。
【横浜地方裁判所平成24年3月28日判決】
消防設備の取付けや配管の設置を業務とする男性(症状固定時42歳)の頚部運動時痛、背部痛、左中指から小指の冷感・しびれ感、腰痛、両足趾の冷感・しびれ感(併合14級)について、仕事の特殊性から、10年間14%の労働能力喪失を認めた(14級の目安は5%)。