交通事故に遭ったことで、「むち打ち」症になることがあります。
そして、むち打ちでは、手や指にしびれなどの神経症状が発生することがあります。
むち打ちの場合、後遺障害として認定されるのでしょうか。
また、どのくらいの額の賠償金を請求できるのでしょうか。
このコラムでは、むち打ちの症状、手や指のしびれの原因についてみたうえで、交通事故の後遺障害として、むち打ちによる手や指のしびれが残った場合の後遺障害認定および賠償金について解説いたします。
1 むち打ちの症状
私たちが車に乗っている時、胴体はシートベルトによって固定されていますが、頭や首は固定されていません。
交通事故による衝突やその反動によって、首がムチのように前後にしなり、首に大きな力がかかることで、むち打ちは発症します。
そのため、むち打ちは首(頚部)のケガとして、「頚椎捻挫」、「頚部挫傷」、「外傷性頚部症候群」といった傷病名で診断されます。
首の痛みの他にも、肩や背中の痛み、手や指のしびれ、握力など筋力の低下、頭痛、めまい、吐き気などが、むち打ちの症状として挙げられます。
2 手や指のしびれの原因
体のしびれは、多くの場合、神経の一部が傷ついたり、圧迫されたりすることで生じます。
神経圧迫の原因の一つが、交通事故によるむち打ちです。
すなわち、むち打ちで怪我をした頚部には、手や指に繋がる神経が走っています。
そして、このような神経がむち打ちにより傷ついたり、頚椎の歪みにより圧迫されたりすることで、手や指のしびれが引き起こされるのです。
交通事故でむち打ち症となり、事故前にはなかった手や指のしびれを感じるようになった場合、それはむち打ちによるものである可能性が高いです。
3 むち打ちで手や指にしびれがある場合の後遺障害等級
治療の結果、手や指のしびれが完全に無くなることが望ましいです。
しかし、治療を続けてもこれ以上良くならない状態になったとして、「症状固定」の判断がされることがあります。
その場合、後遺障害等級の認定申請を検討します。
後遺障害は、最も重い1級から、最も軽い14級までの、14の等級に分けられています。
このうち、むち打ちで手や指にしびれがある場合は、14級9号または12級13号に認定される可能性があります。
14級9号は「局部に神経症状を残すもの」、12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」と定義されています。
あるいは、症状・治療の内容・経過等により、後遺障害に該当しないものとされることがあります。
より重い12級13号と認定されるためには、症状の存在が医学的に「証明」できることが必要となります。
症状の残存を医学的に「証明」するためには、CT検査やMRI検査を通じて、症状が存在することを客観的に証明できなければなりません。
一方で、軽い14級9号と認定されるためには、症状の存在が医学的に「説明」できることが必要となります。
こちらは、自覚症状だけであったとしても、ある程度広く認められる傾向にあります。
4 14級・12級の後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料
①後遺障害逸失利益
「後遺障害逸失利益」とは、交通事故により後遺障害が残ったことで労働能力が低下し、本来得ることができたはずの収入が得られなくなる(収入が減少してしまう)損害のことをいいます。
後遺障害逸失利益は、後遺障害が残ったことにより請求できるものなので、後遺障害に該当しないとされた場合は、請求することができません。
【後遺障害逸失利益の計算式】
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(※)
※ライプニッツ係数とは、民法所定の法定利率である年3%の中間利息控除を反映した係数のことです。後遺障害逸失利益は、将来受け取るはずの収入の減少分を損害賠償の段階で一括して前倒しで受け取ることから、このような中間利息の控除が必要となります。
基礎収入額は、給与所得者等であれば事故前の収入をもとに、家事従事者であれば賃金センサス(統計による平均賃金額)をもとに、算出されます。
労働能力喪失率は、14級で5%、12級で14%とされています。
労働能力喪失期間は、通常は症状固定日から67歳までとされますが、むち打ち症の場合は14級で5年程度、12級で10年程度に制限される例が多く見られます。
【設例】
年収600万円の会社員がむち打ち(頚椎捻挫)で後遺障害14級9号と認定され、労働能力喪失期間が5年とされた場合の後遺障害逸失利益
(計算)
600万円(基礎収入額)×5%(労働能力喪失率)×4.5797(5年のライプニッツ係数)
=137万3910円
なお、上記の労働能力喪失率および労働能力喪失期間については、標準的な数値となります。被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位、程度、交通事故前後の稼働状況等を総合的に判断し、上記とは異なる数値が認定されることもあり得ます。
②後遺障害慰謝料
「後遺障害慰謝料」とは、後遺障害が残ったことによる被害者の精神的損害を賠償するものです。
後遺障害慰謝料も、後遺障害に該当しないとされた場合は、請求することができません。
後遺傷害慰謝料の算定には、一般的に、①自賠責保険基準、②任意保険基準、③裁判基準の3つの基準が用いられています。
このうち、①自賠責保険基準は、自賠責保険金額を算定する際に用いられ、等級ごとに支払額が決まっています。
自賠責保険金額を超える部分については、加害者または任意保険会社から被害者に対して賠償されることになります。
その際に用いられる基準が、②任意保険基準または③裁判基準です。
被害者が弁護士を付けずに示談交渉を行った場合、任意保険会社は、①自賠責保険基準または②任意保険基準に基づいて後遺障害慰謝料を提示してきます。
②任意保険基準の詳細は非公開ですが、14級で40~50万円、12級で90~100万円が相場とされています。
一方で、③裁判基準は、過去の裁判例の傾向に従ったものであり、3つの基準の中で、最も高額となります。
③裁判基準では、14級で110万円、12級で290万円が標準とされており、②任意保険基準の2~3倍の額となっております。
5 弁護士にご相談ください
交通事故でむち打ち症となり、手や指のしびれが残った場合には、後遺障害と認定される可能性があります。
適正な後遺障害の等級認定を受けるためには、専門家である弁護士のサポートを受けることをお勧めいたします。
また、賠償金については、保険会社は被害者ご本人に対しては不当に低額の提示をしてくるのが通常です。
しかし、弁護士を立てて賠償請求を行うことにより、適正な額の賠償金を獲得できる可能性が高まります。
後遺障害の等級認定や保険会社の提示額について疑問や不満がある方は、お気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。
経験豊富な当事務所の弁護士がお客様のお話をお聞きして、適切なサポートをさせていただきます。
(弁護士・一戸皓樹)