1 交通事故による肋骨骨折の概要
(1)肋骨骨折とは
肋骨は、人体の胸部に位置し、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓などの重要な臓器を取り囲むように、左右12体ずつが対になった細い骨のことです。
この肋骨が、交通事故の衝撃によって、ひびが入ったり、折れてしまった状態のことを、肋骨骨折といいます。
交通事故による肋骨骨折は、ハンドル打撲で生じることも多く、ハンドル骨折と呼ばれることもあります。
一般的には、3本以上の肋骨が骨折した場合には、胸部の骨格の安定性が損なわれ、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、重症とされます。
(2)交通事故による肋骨骨折の症状について
肋骨骨折の主な症状は、以下の通りです。
①胸痛
肋骨骨折の最も一般的な症状で、骨折した部位に応じて痛みの程度や位置が異なります。
体を動かして胸付近に負担がかかった時や、深呼吸、せき、くしゃみをした時に、痛みが増すことがあります。
②疼痛
肋骨骨折によって、骨折した部位の周囲の筋肉や皮膚に痛みが生じることがあります。
③呼吸困難
肋骨骨折によって、肺の容積が減少し、呼吸が浅くなるため、呼吸困難を引き起こすことがあります。
その他、胸部腫脹(肋骨骨折によって、胸郭が腫れ上がること)、吐血(肋骨骨折によって、肋骨の破片が肺などの臓器を傷つけることがあり、吐血を引き起こすこと)などもあります。
肋骨骨折の放置は、心臓や肺などの重要な臓器を傷つけるリスクがあり、折れた骨が心臓や肺を傷つけると、呼吸不全や出血性ショックを伴うことがあります。
そのため、交通事故で肋骨に衝撃を受けて痛みがある場合は、すぐに病院で検査を受けるべきです。
(3)交通事故による肋骨骨折の治療について
肋骨骨折の治療は、基本的には保存療法で治していくことが多く、手術を要することはまれであるとされています。
手術を要する場合では、転位(骨が本来の位置からズレること)が大きくて臓器を傷つける可能性がある場合や、多発骨折の場合などで、骨癒合術(骨を金属などの器具で固定して、折れた部分をくっつける手術)が選択されることがあります。
保存療法は、日常生活での安静(肋骨に負担がかからない程度に通常の生活を送ること)を基本とし、痛みなどの炎症を抑えるために湿布や内服薬で経過をみることになります。
また、呼吸や体の動きによって痛みが誘発されるため、バストバンドと呼ばれる専用のコルセット(胸に巻くベルト状のバンド)で固定することにより、呼吸時の胸郭の広がりを抑えて、痛みの軽減を図ります。
多くは3~4週間安静にすると、受傷の程度にもよりますが痛みは徐々に軽減されていき、バストバンドを外すことができるとされています。
そして、骨癒合(骨がくっつくこと)までには、2~3か月を要するのが一般的とされています。
2 肋骨骨折で後遺障害が認められるケース
肋骨骨折で後遺障害が認められるケースは、障害の内容から、変形障害と神経症状の二つに分類されます。
変形障害とは、肋骨骨折で骨が元の形に治らず、変形したまま癒合した障害のことを言います。
神経症状とは、肋骨骨折により神経系統が圧迫されて、痛みやしびれが生じることを言います。
肋骨骨折における変形障害と神経症状について、自賠責保険の後遺障害等級と要件を整理すると、次のとおりになります。
後遺障害の等級 | 要件 |
---|---|
変形障害 12級5号 | 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの |
神経症状 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
神経症状 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
3 肋骨骨折の後遺障害等級認定のポイント
(1)変形障害
変形障害における「著しい変形を残すもの」とは、裸体になったときに、変形が明らかにわかる程度のものをいいます。
そのため、その変形がレントゲンで、はじめて発見できる程度のものは、該当しないことになります。
裸体になったときに変形が明らかにわかる程度であれば、変形している箇所を写真で撮影して、自賠責保険会社へ証拠資料として提出すべきでしょう。
(2)神経症状
神経症状で12級13号か、14級9号かの違いは、画像所見があるといえるかどうかによることになります。
画像所見が明確で、その所見と痛みやしびれの原因が合致していれば、12級13号が認定されることになります。
肋骨骨折では、骨がしっかりとくっついて治ることも多く、後遺障害等級認定で多いのは、画像所見が求められる12級13号ではなく、14級9号となります。
14級9号は、治療状況や症状の一貫性などから痛みやしびれが医学的に説明できるといえる場合に認定されることになります。
その裏付となる資料としては、診断書、カルテ、医師の意見書などがありますので、これらを自賠責保険会社へ証拠資料として提出すべきでしょう。
4 肋骨骨折の後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的苦痛に対する補償ですが、認定された後遺障害の等級が賠償金の算定基準になります。
肋骨骨折で認定される可能性がある後遺障害等級と、それぞれの自賠責保険の基準と裁判の基準の後遺障害慰謝料は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判基準 |
---|---|---|
変形障害 12級5号 | 94万円 | 290万円 |
神経症状 12級13号 | 94万円 | 290万円 |
神経症状 14級9号 | 32万円 | 110万円 |
(2)後遺障害逸失利益
逸失利益とは、後遺障害によって仕事や家事・育児が制限されることに対する補償です。
逸失利益の金額は、下記の方法にて計算します。
【逸失利益の計算方法】
交通事故前の基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失率は、等級ごとに相場があり、12級では14%、14級では5%とされています。
変形障害の場合、相手方の保険会社や相手方の弁護士から、「変形しただけでは労働能力に影響はない(仕事や家事・育児への支障はない)」として、逸失利益を否定したり、より低い労働能力喪失率を主張してくることがあります。
そのため、変形のみならず痛みなどもあって労働能力に影響・支障があることを、しっかりと主張する必要があります。
神経症状の場合、労働能力喪失期間として、実務では、12級13号では10年程度、14級9号では5年程度とされることが多いといえます。
ここでも、相手方の保険会社や相手方の弁護士は、これよりも短い期間を主張してくることがあります。
これに対しても、痛みやしびれの程度、症状固定後も改善が見られないことなどをしっかりと伝えて、適正な労働能力喪失期間を求めていく必要があります。
5 適正な賠償金を獲得するための弁護士の活用
交通事故による肋骨の骨折では、適正な後遺障害等級認定のために、漏れなく証拠資料を提出して認定申請を適切に行う必要があります。
また、適正な賠償金の獲得のために必要十分な主張をして請求を適切に行う必要があります。
後遺障害等級認定申請の提出資料である後遺障害診断書については、訴えている自覚症状はきちんと記載されているか、他覚的所見(検査結果などの客観的資料に基づく医師の判断)がきちんと記載されているかなどのチェックは必要です。
また、交通事故直後の段階では、その症状に応じて、必要な検査が実施されているかのチェックも必要でしょう(当初は打撲傷と診断されたが、呼吸時痛や体動時痛が酷く、3D-CTで検査したところ肋骨骨折が判明したという例があります)。
また、適正な賠償金の獲得においては、裁判の基準を理解して適正な額の請求をすることが必要です。
相手方の保険会社や相手方の弁護士は、自賠責保険の基準や任意保険の基準をもとに賠償金を提示してくることが多いです。
とくに保険会社が被害者本人に最初に提示する賠償金は、最も低い自賠責保険の基準で提案をしており、保険会社が被害者本人に対して、裁判の基準で提示することは、まずありません。
裁判の基準は、弁護士に依頼した場合にはじめて適用されると言ってよいでしょう。
交通事故による肋骨の骨折では、後遺障害等級認定の申請の場面でも、賠償金の請求の場面でも、いずれも専門的な知識が必要となります。
適正な後遺障害等級認定と適正な賠償金の獲得のために、できるだけ交通事故の経験豊富な弁護士に相談してアドバイスを受けることがよいでしょう。
当事務所では、これまでに、数多くの交通事故のご相談・ご依頼をお受けし、解決実績も豊富にございます。
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また、今後の治療・検査や、後遺障害等級認定、示談交渉・訴訟などの手続について、不安をお持ちになるのが通常であると思います。
適切に検査・治療や諸手続を進めて、適正な賠償金を獲得するためには、できるだけ早く弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
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