交通事故の被害者が自己破産をする場合に、損害賠償金も失われてしまうのではないかという問題があります。
この点、交通事故の発生が破産手続開始の後か前かにより、取り扱いが異なりますので、以下でご説明させていただきます。
破産手続開始決定後の交通事故
破産手続開始決定後に交通事故の被害に遭った場合、損害賠償請求の権利は「新得財産」として、破産手続による処分の対象となりません。
そのため、自己破産をしても損害賠償金を手元に残すことができます。
破産手続開始決定前の交通事故
破産手続開始決定前に交通事故の被害に遭った場合、損害項目ごとに破産手続による処分の対象となるかどうかの取り扱いが異なります。
以下でご説明させていただきます。
①自賠責保険金
自賠責保険金の請求権は、法律上、「差押禁止財産」とされています。
そして、破産法では、差押禁止財産は破産手続による処分の対象とされませんので、自賠責保険金は手元に残すことができます。
②治療関係費
治療費の請求権は、破産者の再起に不可欠なものとして、破産手続による処分の対象にはならないと一般的に考えられています。
入院雑費・通院交通費も同様に考えることができます。
また、治療費については、保険会社から医療機関に対して直接支払われるのが通常であるため、現実的に問題となることもほとんどありません。
③慰謝料
慰謝料の請求権は、被害者の一身専属的な権利であると考えられており、基本的には破産手続による処分の対象とならず、手元に残すことができると考えられています。
ただし、破産手続開始決定前に示談が成立し、慰謝料の金額が確定していた場合には、破産手続による処分の対象となるため、手元に残すことはできません。
④休業損害・逸失利益
休業損害・慰謝料の請求権は、破産手続による処分の対象となるため、手元に残すことはできません。
ただし、休業損害・逸失利益の取得が破産者の再起に不可欠であることを証明できた場合には、「自由財産」として休業損害・慰謝料の全部または一部を手元に残すことができる可能性があります。
⑤物損
車両損害など物損に関する損害賠償請求権は、破産手続による処分の対象となるため、手元に残すことはできません。