1 頚椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等の症状
頚椎・胸椎・腰椎を圧迫骨折や破裂骨折などすれば、骨折した箇所に痛み等の症状が現れることが多いでしょう。
また、頚椎・胸椎・腰椎は、脊柱の一部を構成しています。
脊柱とは、いわゆる背骨のことであり、人間の体を内部から支える機能があります。
そして、この脊柱の内部には脊髄が通っており、交通事故により頚椎・胸椎・腰椎を圧迫骨折等すれば、脊髄の圧迫による上肢や下半身の痺れ等の症状が現れることがあります。
2 頚椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等の後遺障害
交通事故による頚椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等により、後遺障害が認定されることがあります。
この後遺障害に認定されるためには、治療後に残存した症状が一定の要件に該当することが必要となります。
頚椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等による問題となるのは、後遺障害6級5号、6級相当、8級2号、8級相当、11級7号です。
それぞれの認定基準について、以下でご説明させていただきます。
(1)後遺障害6級5号の認定基準
後遺障害6級5号に認定されるためには、症状が「脊柱に著しい変形または運動障害を残すもの」に該当する必要があります。
この「脊柱に著しい変形を残すもの」とは、エックス線写真(XP・レントゲン)やCT、MRIといった医療画像から、脊椎圧迫骨折等の症状を確認することができる場合で、次のいずれかに該当するものをいいます。
①脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎(背中が丸くなる)が生じているもの
②脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じるとともに、コブ法による側彎(脊柱が横方向に曲がる)の角度が50度以上となっているもの
「脊柱に著しい運動障害を残すもの」とは、次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直(脊柱が固くなり、可動域制限が発生すること)したものをいいます。
①頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
②頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
(2)後遺障害6級相当の認定基準
脊柱に荷重機能(支持機能)の障害を残し、その程度が著しいものは、後遺障害6級相当と認定されます。
荷重機能障害による後遺障害6級相当の認定基準は、「荷重機能障害の原因が明らかに認められる場合であって、そのために頚部および腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの」となります。
「荷重機能障害の原因が明らかに認められる場合」とは、脊椎の圧迫骨折・脱臼、脊椎を支える筋肉の麻痺または項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化の存在を、エックス線写真等により確認できることを意味します。
(3)後遺障害8級2号の認定基準
後遺障害8級2号に認定されるのは、症状が「脊柱に運動障害を残すもの」に該当する場合となります。
この「脊柱に運動障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
①次のいずれかにより、頚部および胸腰部の可動域が参考可動域角度(可動域の正常値)の50%以下に制限されたもの
ⅰ.頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
ⅱ.頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
ⅲ.項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
②頭蓋と上位頚椎(第1頚椎と第2頚椎)との間に著しい異常可動性が生じたもの
(4)後遺障害8級相当の認定基準
【変形障害】
症状が「脊柱に中程度の変形を残すもの」に該当する場合には、後遺障害8級相当と認定されます。
「脊柱に中程度の変形を残すもの」とは、エックス線写真やCT、MRIといった医療画像から、脊椎圧迫骨折等の症状を確認することができる場合であって、次のいずれかに該当するものをいいます。
①脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているもの
②コブ法による側彎の角度が50度以上となっているもの
③環椎または軸椎の変形・固定(環椎と軸椎との固定術が行われた場合を含む)により、次のいずれに該当するもの
ⅰ.60度以上の回転位となっているもの
ⅱ.50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位となっているもの
ⅲ.側屈位となっており、エックス線写真等により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
【荷重機能障害】
脊柱に一定の荷重機能(支持機能)の障害を残す場合には、後遺障害8級相当と認定されます。
荷重機能障害による後遺障害8級相当の認定基準は、「荷重機能障害の原因が明らかに認められるものであって、頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの」となります。
「荷重機能障害の原因が明らかに認められる場合」とは、後遺障害6級相当の場合と同じく、脊椎の圧迫骨折・脱臼、脊椎を支える筋肉の麻痺または項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化の存在を、エックス線写真等により確認できることを意味します。
(5)後遺障害11級7号の認定基準
後遺障害11級7号に認定されるのは、症状が「脊柱に変形を残すもの」に該当する場合となります。
「脊柱に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
①脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真、CT画像またはMRI画像により確認できるもの
②脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く)
③3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの
もっとも、11級7号の後遺障害については、脊柱の圧迫骨折等は骨粗しょう症等により交通事故以外の原因でも生じ得るものです。
そのため、脊柱の圧迫骨折等があったことのみでは、交通事故との因果関係が明らかではなく、後遺障害非該当になることもあります。
そこで、交通事故によって生じたものであることを明らかにするために、脊柱の圧迫骨折等が疑われる場合には、早期にエックス線写真(XP・レントゲン)やMRIの検査を受けるようにしましょう。
事故直後のエックス線写真やMRIの画像が残っていることにより、交通事故との因果関係を明確にすることができます。
3 頚椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等の後遺傷害慰謝料
後遺障害に認定された場合、損害項目として、後遺傷害慰謝料を加害者に請求することができます。
裁判所が用いる基準に従って後遺傷害慰謝料を請求する場合、標準額は以下のようになります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料(裁判基準) |
---|---|
6級 | 1180万円 |
8級 | 830万円 |
11級 | 420万円 |
4 頚椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等の後遺障害逸失利益
また、後遺障害に認定された場合、その後遺障害があることによる減収分を逸失利益として加害者に請求することができます。
逸失利益は、基礎となる収入額(原則として事故前年度の年収額を用います)に対し、各等級の労働能力喪失率と、ライプニッツ係数(減収が見込まれる年数について、年3%の中間利息控除をした数値)を掛け合わせることにより計算します。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
6級 | 67% |
8級 | 45% |
11級 | 20% |
例えば、症状固定時の年齢が40歳の男性が、事故前年度の年収額が400万円であり、腰椎の圧迫骨折により後遺障害8級となった場合、67歳までの27年間・45%の労働能力喪失率を前提とすれば、後遺障害逸失利益は次のように計算されます。
400万円×45%×18.3270(※)=3298万8600円
※27年のライプニッツ係数:18.3270
もっとも、後遺障害11級7号に該当した場合、注意すべきことがあります。
後遺障害11級7号では、日常生活にそれほど支障がない場合もあり、他の後遺障害11級と同程度に労働能力喪失があるのか、その労働能力の喪失が一生涯続くものなのか、議論があるところです。
保険会社が逸失利益を否定し、または逸失利益を過少に見積もって賠償提示してくることも、多々あります。
しかし、骨が変形して癒合したことにより、痛みや痺れ等の症状が残っていることもあり、労働能力に大きな影響を与える場合も少なくありません。
このような場合には、具体的に残っている症状や労働に対する支障を証拠によって明らかにし、労働能力が喪失していることを主張することにより、十分な逸失利益の賠償を得ることを目指していくこととなります。
5 弁護士にご相談ください
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