交通事故により人身の被害を受けた場合、被害者・相続人等は加害者に対して損害賠償を請求することができます。
一方で、一定の要件を満たす場合には、被害者・遺族に対し、公的年金(国民年金・厚生年金)の障害年金・遺族年金、労災保険の障害補償年金・遺族補償年金が給付されるようになります。
このような損害賠償と障害年金・遺族年金等の関係として①障害年金・遺族年金等の給付を受けると請求できる損害賠償から控除されるのか?②損害賠償を受け取ると障害年金・遺族年金等の給付はどうなるのか?が問題となります。
①障害年金・遺族年金等の給付を受けると請求できる損害賠償から控除されるのか?
交通事故による損害賠償額を算定する際に、被害者側が損害を受ける一方で、その損害に関連して利益を得たという場合には、その利益額が損害賠償額から控除されます。
これを「損益相殺」と言います。
障害年金・遺族年金等は交通事故により人身の被害を受けたことを原因とする給付であるため、損益相殺の対象となります。
そして、損益相殺される(損害賠償から控除される)範囲は、すでに支給が確定した障害年金・遺族年金等の限度となります。
具体的には、すでに支払われた障害年金・遺族年金等の金額、および通知書が来ており支給額が確定している障害年金・遺族年金等の金額に限り、損害賠償から控除されることとなります。
これに対し、来年以降の障害年金・遺族年金等など、まだ支給額が確定していない障害年金・遺族年金等については、損益相殺の対象とはなりません。
②損害賠償を受け取ると障害年金・遺族年金等の給付はどうなるのか?
交通事故による損害賠償を受け取った場合、公的年金(国民年金・厚生年金)の障害年金・遺族年金は、事故発生から最長3年間支給停止となります。
また、労災保険の障害補償年金・遺族補償年金は、事故発生から最長7年間支給停止となります。
損害賠償のうち逸失利益等の被害者・相続人の生活保障に関する部分は、被害者・遺族の生活保障のために給付される障害年金・遺族年金等と目的を同じくするため、法律上、二重に受け取ることはできないものとされているのです。
ただし、厚生労働省の運用では、公的年金(国民年金・厚生年金)の障害年金・遺族年金の支給停止期間の上限は3年間とされています。
また、労災保険の障害補償年金・遺族補償年金の支給停止期間の上限は7年間とされています。
このように支給停止期間が限定されているのは、被害者・遺族の生活保障を手厚く行うという配慮です。