追突、赤信号無視、センターラインオーバーなど、客観的に過失割合が0:100と認められる事故であれば、事故と相当因果関係のある損害(法的に請求可能な損害)を全額賠償請求することができます。
しかし、客観的に過失割合が0:100と認められる事故でなければ、全額賠償を受けることは難しいと考えられます。
このような事故直後の現場合意は、その効力を否定する法的根拠は色々と考えられます。
まず、「言った」「言わない」の争いになれば、現場でそのような合意があったことを立証することができず、現場合意の存在を前提とする賠償を受けることは困難です。
また、仮に現場で「全額賠償する」という一筆を書かせるなどし、そのような合意があったことを裏付けられるとしても、客観的に過失割合が0:100と認められないのであれば、錯誤(民法95条)の適用により合意の効力が認められなくなってしまう可能性が高いでしょう。
そして、被害者から現場で強く責められ、加害者がその場しのぎで「全額賠償する」と約束したなどの事情がある場合には、心裡留保(民法93条)や強迫(民法96条)の適用により、合意の効力が否定されることも考えられます。
この点、実質的に見ても、仮にこのような現場合意に強固な法的拘束力が認められるとなれば、現場で相手方を強く責めて有利な約束をさせた者が勝つ、という不都合が生じてしまいます。
以上から、事故直後に現場で加害者から「全額賠償する」という約束を取り付けさえすれば全額賠償を受けられる、ということにはなりません。
なお、ここで加害者が言う「全額賠償」というのは、被害者が認識・想定する賠償範囲と齟齬がある場合もあり得ます。
この点、「全額賠償」が指す範囲は、通常は事故と相当因果関係のある損害(法的に請求可能な損害)を意味すると解され、それを超える範囲の賠償を現場で約束させたとしても、同様に錯誤(民法95条)などの適用により合意の効力は否定される可能性が高いと考えられます。
ここで、加害者側の保険会社が全額賠償に応じないからといって、加害者に対してご自身の過失割合分の直接請求をするのはやめましょう。
加害者側にも弁護士が付くことが考えられ、そうなると賠償に関する対応がより硬直的になることが想定されます。
加害者に対する直接請求により、事態が好転することはありません。
なお、ご自身が加入する自動車保険の人身傷害保険が使える場合には、ご自身の過失割合分の人身損害は人身傷害保険による補償を受けることができます。
そして、人身傷害保険を使用しても、保険等級は下がりません。