交通事故の賠償問題の解決手続には、示談交渉や訴訟(裁判)が存在することは一般によく知られているところですが、「(公益財団法人)交通事故紛争処理センター」と「(公益財団法人)日弁連交通事故相談センター」という機関による「あっ旋手続」というものも存在します。
いずれのセンターも、交通事故による損害賠償に関する相談や、和解(示談)のあっ旋手続などの業務を行っています。
あっ旋手続とは、センターの専門スタッフが当事者の間に入って、交通事故の賠償問題に関する話し合いの仲介をしてくれるというものです。
そして、話し合いがまとまらない場合には、「審査」と言って、センターが加害者側の保険会社が支払うべき賠償金の額を判断する手続に移行します。
なお、センターでのあっ旋手続では、センターが間に入って進めてくれるとはいえ、被害者側でしっかりと主張・立証を展開していく必要がありますので、やはり、専門家である弁護士に依頼して手続に臨むことをお勧めします。
以上の「審査」によって示された賠償金の額については、被害者側は拒否権がありますが(拒否した場合には、訴訟での解決を目指すことになるのが通常でしょう)、交通事故紛争処理センターの判断は共済以外の保険会社(東京海上日動社、三井住友海上社、損保ジャパン日本興亜社など)を拘束し(拘束=保険会社側からの拒否はできない)、日弁連交通事故相談センターの判断は共済(JA共済連、全労済、トラック共済など)を拘束します。
私も、上記の2つのセンターのあっ旋手続を利用して交通事故の賠償問題を解決したことがあります。
あっ旋手続では、賠償額が裁判基準によって算定されること、「審査」で示された判断が保険会社を拘束することといったメリットがあります。
しかし、一方で、あっ旋手続を利用できるのが、交通事故紛争処理センターでは仙台、日弁連交通事故相談センターでは盛岡が直近となります。
いずれも遠方であり、「審査」の手続に移行した場合には、弁護士だけでなく、被害者の方も平日の日中に仙台や盛岡のセンターへの出席が必要となり、使い勝手が良いとは言えないのが実際のところです。
また、一般に、センターでのあっ旋手続は、裁判所での訴訟よりも早期の解決が期待できると言われており、確かに事案によってはスムーズな解決が望めるのですが、訴訟と同程度あるいは訴訟よりも遅いと思われる進行に戸惑ったケースもありました。
さらに、訴訟では付加される弁護士費用や遅延損害金(訴訟上の和解での解決の場合は、満額とまではいきませんが、弁護士費用や遅延損害金を考慮して一定割合の調整金が賠償金に上乗せされます)が、センターでのあっ旋手続では一切認められない点もあります。
以上、実際にセンターのあっ旋手続を利用してみた感想としては、交通事故の賠償問題の解決方法として、メインに活用していくのは難しいのではないかと思われました。
よって、裁判基準での満額賠償を重視する当事務所のスタンスとしては、示談交渉で満額解決できる保険会社であれば示談交渉もありとしますが、そうでない場合には、今後も訴訟による解決を中心に据えるべきであろうと考えています。
(弁護士・木村哲也)