1 はじめに

交通事故で顔面に怪我を負った場合、その怪我の跡が残ることがあります。
顔面の傷痕が人目に付きやすい部分に残った場合、これを外貌醜状といいます。
交通事故によってこの外貌醜状が残った場合、人目に付くため精神的苦痛を受けることはもちろんのこと、仕事に支障が生じて減収が生じることがあります。
特に、バイクや自転車による交通事故や歩行中の交通事故の場合に、自動車とは異なって運転中に身体の一部が露出しているため、顔や身体に傷が残ることがあります。
そのため、交通事故によって外貌醜状を負った場合、後遺障害と認定されるのか、逸失利益や慰謝料をどのように考えるのか、という問題が発生します。

2 頭部・顔面・頚部の傷痕による後遺障害

前提として、頭部・顔面・頚部の傷痕による後遺障害が認定されるためには、その傷痕が、人目に付く程度以上のものであることが必要です。
そのため、頭髪や眉毛によって傷痕を隠せている場合には、後遺障害として認定されませんので、この点に注意する必要があります。
頭部・顔面・頚部の外貌醜状についての後遺障害認定基準は以下のとおりとなります。

等級 認定基準 認定基準の具体的な内容
7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの 原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目に付く程度以上のものをいう。
1.頭部にあっては、手のひら大(指の部分は含まない。以下同じ)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
2.顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕または10円銅貨大以上の組織陥没
3.頚部にあっては、手のひら大以上の瘢痕
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの 原則として、顔面部の長さ5cm以上の線状痕で、人目に付く程度以上のものをいう。
12級14号 外貌に醜状を残すもの 原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目に付く程度以上のものをいう。
1.頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
2.顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕または長さ3cm以上の線状痕
3.頸部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕

3 上肢・下肢の傷痕による後遺障害

上肢と下肢、つまり手足に傷が残った場合の後遺障害等級については、手足の傷痕は衣服によって隠すことができるため、後遺障害の等級としては軽いものと考えられています。
そのため、傷痕の大きさや部位によって等級が変わることはありません。
上肢と下肢の傷痕による後遺障害等級認定基準は以下のとおりとなります。

等級 認定基準
14級4号 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
14級5号 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

 
なお、上肢または下肢に、手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕、具体的には、手のひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕が残る場合には、12級相当と判断されます。

4 外貌醜状(傷痕)と後遺障害逸失利益

外貌醜状が後遺障害等級に認定されると、後遺障害逸失利益の請求を検討することになります。
もっとも、後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって将来の減収が生じると観念される場合に認められるものです。
外貌醜状の場合、被害者が就いている職種によっては就業にまったく影響を与えない場合があることや、そもそも身体的な機能を低下させるものではないことも考慮され、逸失利益が認められないと考える立場もあります。
これは、肉体労働に従事している労働者が顔面に外貌醜状を負った場合を考えていただけると分かりやすいかと思います。
しかし、仕事をする際に外貌醜状が人目に付く等して、就業にまったく影響がないことはごく限られるものと考えられます。
そのため、外貌醜状については、特に後遺障害逸失利益が強く争われることが多く見られます。
このように強く争われる外貌醜状による後遺障害逸失利益ですが、仮に認められる場合、後遺障害逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(年数に対して民法所定の年3%の中間利息を控除した数値)」によって計算されるのが基本です。
労働能力喪失期間は、被害者が67歳まで労働できることを前提とした年数が用いられることが原則的なものとなりますが、外貌醜状の場合、被害者が将来従事する職種や被害者の年齢、外貌醜状の状況によって就業に影響を与える期間は様々であり、個々の事案に応じ短期間に調整されることがあります。
ここでは原則的な扱いに従い、等級ごとの労働能力喪失率を表で示します。

等級 労働能力喪失率
7級12号 56%
9級16号 35%
12級14号 14%
14級 5%

 
前述したとおり、外貌醜状は後遺障害逸失利益が強く争われる点であり、外貌醜状では必ずしも労働者の将来の収入に影響を与えないと判断され、後遺障害逸失利益が全く認められないことがあります。
その場合には、次に述べる後遺障害慰謝料において金額の増額調整がされることがあります。

5 外貌醜状(傷痕)と後遺障害慰謝料

外貌醜状が後遺障害等級に認定されると、後遺障害慰謝料を請求することができます。
その金額は等級ごとに分かれており、次の表のとおりとなります。

等級 後遺障害慰謝料
(自賠責基準)
後遺障害慰謝料
(裁判基準)
7級12号 419万円 1000万円
9級16号 249万円 690万円
12級14号 94万円 290万円
14級 32万円 110万円

 
外貌醜状では後遺障害逸失利益が認められない可能性があることは前述したとおりですが、その場合には、後遺障害慰謝料において金額が調整されることがあります。
このような調整が行われるのは、将来の減収が見込まれない場合であっても、外貌醜状により対人関係や社会的な活動に消極的となり得るといった、特別な事情が考慮される場合です。
この特別な事情は、一例となりますが、女性で外貌醜状の存在が結婚の際に事実上不利益に考慮されるといったものが考えられますが、逸失利益が否定された場合に備えてこのような点を丁寧に主張・立証することが必要となります。
調整的な後遺障害慰謝料が認められる場合、金額の相場としては、100万円から200万円の範囲で増額調整されるのが裁判例の一般的な傾向となります。

6 弁護士にご相談ください

外貌醜状による後遺障害等級の認定は複雑かつ専門的な法的問題点が含まれているため、適切な逸失利益や後遺障害慰謝料を請求するためには弁護士の活用が不可欠となります。
交通事故による外貌醜状でお困りの方は、当事務所の弁護士までご相談ください。

(弁護士・荒居憲人)

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