1 はじめに

交通事故で顔面を強打すると、歯が欠けたり折れたりすることがあります。
歯が欠損した場合には、本数や症状により後遺障害に該当する場合があります。
一方、交通事故が発生する前に虫歯などが原因で、もともと歯を喪失している方の場合、どのような場合に後遺障害に該当するか難しく思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、交通事故で歯が折れた場合の後遺障害と、これに伴う賠償金についてご説明いたします。

2 歯が折れた場合の後遺障害

まず、後遺障害に該当する歯牙障害というのは、「歯の喪失」または「歯を著しく欠損した」と認められ、歯医者でクラウン、ブリッジ、インプラントといった歯科補綴を実施した場合、その歯科補綴をした歯の本数に応じて認定されることになります。

ここでいう「歯の喪失」というのは、現実に歯を失った場合はもちろんですが、ひびが入った歯を治療するためにやむを得ず抜歯して失ったものも含まれます。
これに対し、「歯を著しく欠損した」というのは、交通事故によって歯冠部の体積の4分の3以上が欠けたことを指します。

なお、歯科補綴を実施したとしても歯の穴を埋める治療(インレー)や、歯のひびや神経についての治療は、歯牙障害の本数にはカウントされません。

そして、後遺障害等級は、歯牙補綴をした本数に応じて以下のように認定されます。

等級 認定基準(障害の程度)
10級4号 14歯以上に対して歯牙補綴を加えたもの
11級4号 10歯以上に対して歯牙補綴を加えたもの
12級3号 7歯以上に対して歯牙補綴を加えたもの
13級5号 5歯以上に対して歯牙補綴を加えたもの
14級2号 3歯以上に対して歯牙補綴を加えたもの

 
もっとも、交通事故に遭う前から既に歯を喪失していたり、虫歯によって欠損していたりする方もいらっしゃいます。
このように、交通事故に遭う前から後遺障害に当たるような歯牙補綴を受けていた方が、交通事故に遭ったことでさらに歯牙補綴を行った場合には、加重障害として扱われます。
例えば、今回の交通事故で6歯の歯牙補綴を加えたが、事故の前からこれとは別に4歯の歯牙補綴を行っていたという場合には、合計10歯の歯牙補綴となるので、現存障害11級4号、既存障害14級2号、と認定されることになります。

なお、後遺障害に該当する歯牙障害は永久歯を対象にしており、親知らずや乳歯については歯牙障害としての後遺障害認定の対象とはなりません(ただし、乳歯の場合、永久歯が生えないことが証明できた場合には対象となります)。

3 歯が折れた場合の後遺障害逸失利益

通常、後遺障害に該当した場合、後遺障害による労働能力の喪失によって、将来得られたであろう利益が得られなかったものとして、その等級に応じて後遺障害逸失利益の賠償を受けることができます。

しかし、歯牙障害の場合、歯牙補綴を加えると歯の機能のほとんどが回復することになるため、労働能力が喪失したとは考えづらい障害と言えます。
また、ほとんどの職業では、「歯の喪失」または「歯を著しく欠損した」ことが、労働能力の喪失に影響することはないでしょう。

したがって、アナウンサーなどの発声が重視される職業や、スポーツ選手のように歯を食いしばる必要がある職業などといったものでない限り、歯牙障害による逸失利益が認められにくい傾向にあります。

4 歯が折れた場合の将来治療費

これに対し、インプラント治療を行う場合、一旦は治療が終了したとしても、定期的なメンテナンスの必要があるとか、インプラントの耐用年数の関係からで再埋入・交換といった諸費用が将来かかってくることなどが予想されます。

このような将来治療費については、何年ごとにいくらの費用がかかるのかといったことが不確定であることから、金額の算出をすることが一概にはできません。

もっとも、実際には主治医により意見書を書いてもらうといった協力を得ることで、一定の将来治療費の賠償が認められるといった裁判例も散見されるため、適正な資料を用意して交渉をしていくことが重要となります。

5 歯が折れた場合の後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料については、以下のとおり、後遺障害等級に応じて決まります。

後遺障害等級 後遺障害慰謝料
10級4号 550万円
11級4号 420万円
12級3号 290万円
13級5号 180万円
14級2号 110万円

 
もっとも、上記の後遺障害慰謝料についてはいわゆる裁判基準であり、加害者側の保険会社から提示される金額は、これを大きく下回ることがほとんどです。

なお、加重障害の場合は、現存障害の等級に該当する後遺障害慰謝料の金額から既存障害の等級に該当する後遺障害慰謝料の金額を控除することになります。
先ほど挙げた、現存障害11級4号、既存障害14級2号という例に照らすと、現存障害420万円から既存障害110万円を控除した310万円の後遺障害慰謝料が認められることになります。

6 弁護士にご相談ください

このように、どの後遺障害等級が認定されるかによって、その賠償金が異なるため、適切な賠償金を獲得するためには、実際の症状に見合った等級が認定される必要があります。
そして、等級の認定は、歯科医が作成した後遺障害診断書をもとに自賠責調査事務所が判断することになります(なお、歯牙障害の場合は、他の後遺障害の場合と異なる書式の後遺障害診断書を用いることになります)。

他方で、交通事故により歯牙障害を負うほどの衝撃を受けた場合には、歯牙障害以外の障害も負っている可能性が高いと考えられます。
特に、口や顎に衝撃が加わった場合には、咀嚼障害や言語障害も併発していることも珍しくなく、これらの障害についても歯牙障害とは別に後遺障害に該当するような症状に至っている可能性もあります。

そのため、交通事故で歯が折れた場合には、交通事故の分野に強い弁護士に相談されることをお勧めいたします。
交通事故の分野に強い弁護士であれば、歯牙障害の他にも何か後遺障害に該当していないかを判断し、どのような等級が認定されるかについて見通しを立てることができます。

当事務所では、交通事故発生後から加害者に対する損害賠償請求までワンストップで対応しております。
歯牙障害等のことでご不明な点やご心配な点がある方は、お気軽にお問い合わせください。

(弁護士・下山慧)

交通事故無料相談

当事務所の弁護士が書いたコラムです。ぜひご覧下さい。

No 年月日 コラム
63 R6.9.10 交通事故で過失割合が10対0になる場合(弁護士・下山慧)
62 R6.7.23 【2023年】青森県の事故多発交差点(弁護士・木村哲也)
61 R6.7.8 交通事故で過失がある場合に弁護士に依頼するメリット(弁護士・木村哲也)
60 R6.4.15 交通事故で歯が折れた場合の後遺障害と賠償金(弁護士・下山慧)
59 R6.4.1 交通事故で顔や身体に傷痕が残った場合の後遺障害と賠償金(弁護士・荒居憲人)
58 R6.3.12 交通事故のむち打ち(頚椎捻挫・頚部挫傷・外傷性頚部症候群)による手や指のしびれと後遺障害(弁護士・一戸皓樹)
57 R6.3.4 1回目の交通事故の治療中に2回目の交通事故に遭って同じ部位に怪我をしてしまったら(弁護士・木村哲也)
56 R5.11.7 交通事故の示談の進め方は?適正な賠償金・過失割合にするための対処法を弁護士が解説(弁護士・神琢磨)
55 R5.7.24 青森市の交通事故が多発する交差点(弁護士・木村哲也)
54 R5.5.30 日本交通法学会の講演「若年未就労の障害者の逸失利益算定方法について」を受講しました。(弁護士・木村哲也)
53 R5.2.10 雪道・凍結路面での事故と過失割合(弁護士・木村哲也)
52 R4.7.1 駐車場内の事故と過失割合(弁護士・神琢磨)
51 R4.3.7 八戸警察署管内の交通事故発生状況について(弁護士・畠山賢次)
50 R4.2.17 青森市に「青森シティ法律事務所」を開設しました。(弁護士・木村哲也)
49 R2.12.15 医療鑑定研究会様のWEBセミナー「意識障害を理解する」「神経心理学的検査の要点」を受講しました。(弁護士・木村哲也)
48 R2.11.27 医療鑑定研究会様のWEBセミナー「頭部への外力と脳損傷頭部画像所見」を受講しました。(弁護士・木村哲也)
47 R2.10.15 医療鑑定研究会様のWEBセミナー「最近の裁判例における高次脳機能障害の認定状況」を受講しました。(弁護士・木村哲也)
46 R2.4.30 LINEでのビデオ通話による法律相談対応を開始しました。(弁護士・木村哲也)
45 R2.4.30 民法改正による法定利率の見直しと交通事故の損害賠償への影響(弁護士・木村哲也)
44 H30.12.5 歩行中の高齢者の交通事故被害について(弁護士・下山慧)
43 H30.9.26 高齢ドライバーによる交通事故について(弁護士・山口龍介)
42 H30.6.14 交通事故110番様の第10回実務講座を受講しました。(弁護士・山口龍介)
41 H30.6.7 整骨院への通院に関してご注意いただきたいこと(弁護士・木村哲也)
40 H30.1.9 一般道でのシートベルト後部座席着用率が青森県27.6%で東北最低との調査結果が報じられました。(弁護士・木村哲也)
39 H29.11.15 船井総研の第6回・後遺障害認定実務講座を受講しました。(弁護士・山口龍介)
38 H29.9.11 交通事故110番様の第9回実務講座を受講しました(弁護士・山口龍介)
37 H29.8.18 青森高次脳機能障害家族会「あっぷるメイト」様について(弁護士・木村哲也)
36 H29.6.19 交通事故紛争処理センターと日弁連交通事故相談センターのあっ旋手続の利用雑感(弁護士・木村哲也)
35 H29.5.18 日本交通法学会の自動運転車に関するシンポジウムに参加しました。(弁護士・木村哲也)
34 H29.3.21 日本交通法学会・人身賠償補償研究会に出席してきました。(弁護士・木村哲也)
33 H28.11.7 船井総研の第4回・後遺障害認定実務講座を受講しました。(弁護士・木村哲也)
32 H28.10.4 死亡事故について(弁護士・木村哲也)
31 H28.8.9 交通事故110番様の第8回実務講座を受講しました(弁護士・木村哲也)
30 H28.8.3 八戸市で交通事故の多い交差点ランキング(弁護士・山口龍介)
29 H28.5.30 船井総研の第3回・後遺障害認定実務講座を受講しました。(弁護士・木村哲也)
28 H28.5.19 国会で継続審議中の民法の大改正で、損害賠償額が大幅に増額される見込みが出てきました。(弁護士・山口龍介)
27 H28.2.23 交通事故と自由診療・健康保険について(弁護士・山口龍介)
26 H28.2.1 むちうちについて(弁護士・木村哲也)
25 H28.1.5 2015年の交通事故死亡者数が15年ぶりに増加(弁護士・木村哲也)
24 H27.10.27 船井総研の第2回・後遺障害認定実務講座を受講してきました。(弁護士・山口龍介)
23 H27.6.30 交通事故以外の損害賠償案件について(弁護士・木村哲也)
22 H27.6.23 民事訴訟における和解(弁護士・木村哲也)
21 H27.6.19 交通事故と成年後見(弁護士・木村哲也)
20 H27.6.12 事故現場の検証(弁護士・木村哲也)
19 H27.6.9 当事務所では、弁護士がお客様と面談してお話しすることを重視しています。(弁護士・木村哲也)
18 H27.6.5 状況によっては出張相談もいたします。(弁護士・木村哲也)
17 H27.6.2 交通事故被害者のご親族の方によるご相談について(弁護士・木村哲也)
16 H27.5.29 物損事故の取扱件数が増えています。(弁護士・木村哲也)
15 H27.5.27 日本交通法学会の定期総会に出席しました。(弁護士・木村哲也)
14 H27.4.20 船井総研の第1回・後遺障害認定実務講座を受講しました。(弁護士・木村哲也)
13 H27.4.14 医療画像鑑定セミナーを受講してきました。(弁護士・山口龍介)
12 H27.3.24 日本交通法学会の人身賠償補償研究会に出席しました。(弁護士・木村哲也)
11 H27.2.16 交通事故110番様の実務講座を事務職員と受講しました。(弁護士・木村哲也)
10 H27.1.23 仕事で使うツール③別冊判例タイムズ38(弁護士・木村哲也)
9 H27.1.23 仕事で使うツール②青い本(弁護士・木村哲也)
8 H27.1.23 仕事で使うツール①赤い本(弁護士・木村哲也)
7 H26.10.22 兵庫県で自転車の保険加入義務化の条例案(弁護士・木村哲也)
6 H26.8.6 交通事故110番様による高次脳機能障害の実務講座を受講しました。(弁護士・木村哲也)
5 H26.3.13 刑事記録の取得③(弁護士・木村哲也)
4 H26.2.4 刑事記録の取得②(弁護士・木村哲也)
3 H25.12.8 刑事記録の取得①(弁護士・木村哲也)
2 H25.10.15 弁護士費用特約は付いていますか?(弁護士・木村哲也)
1 H25.9.8 相談料・着手金は無料です。(弁護士・木村哲也)