1 交通事故による鎖骨骨折の概要
車の中ではなく、歩行中や、自転車やバイクでの走行中のように、自分の体が外にあるような場合に交通事故の被害に遭うと、転倒して地面に体を強く打ち付けたりして、鎖骨を骨折してしまうことがあります。
鎖骨骨折は、骨折の部位によって以下の3つに分類されます。
・鎖骨近位端骨折(鎖骨の胸骨に近い3分の1部分の骨折)
・鎖骨骨幹部骨折(鎖骨の中央3分の1部分の骨折)
・鎖骨遠位端骨折(鎖骨の肩甲骨に近い3分の1の部分の骨折)
交通事故により鎖骨骨折をしてしまったとしても、治療の結果、完治することができた場合には、適正な賠償金の支払を求めることにより被害の回復を図ることになります。
他方で、必要な治療を受けても一定の症状が後遺障害として残存することがあります。
以下では、交通事故により鎖骨を骨折してしまった場合に、特に問題となる後遺障害に関連する事項について、ご説明させていただきます。
2 鎖骨骨折で後遺障害が認められるケース
鎖骨骨折で後遺障害が認められるケースは、主に以下の3つとなります。
①変形障害
変形障害というのは、骨折した鎖骨がうまくくっつかず、鎖骨に変形を残してしまう障害のことをいいます。
②機能障害(運動障害)
機能障害というのは、鎖骨骨折が原因で、肩関節がうまく動かなくなり、可動域に制限が生じる障害のことをいいます。
③神経障害
神経障害というのは、骨折した箇所の痛みや痺れが、症状固定後も残ってしまう障害のことをいいます。
3 鎖骨骨折の後遺障害等級認定のポイント
認定される後遺障害の等級は、障害の内容および程度により異なります。
以下では、障害の内容ごとに、後遺障害が認定されるポイントをご説明いたします。
①変形障害
鎖骨の変形障害に関して定められている後遺障害等級は、以下のとおりです。
後遺障害の等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの |
鎖骨に「著しい変形を残すもの」であるといえるためには、裸になった際に、鎖骨の変形(または欠損)を第三者が発見できるような状態である必要があります。
そのため、鎖骨の変形が、裸では把握できず、レントゲン写真ではじめて発見できるような場合には、「著しい変形を残す」とは認定してもらえません。
変形障害を理由に、後遺障害を認定してもらうポイントとしては、後遺障害の認定申請や異議申立ての際に、鎖骨の変形部分を写真撮影し、写真を添付資料とするのが有用です。
②機能障害(運動障害)
鎖骨の機能障害に関して定められている後遺障害等級は、以下のとおりです。
後遺障害の等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号が定める「関節の用を廃したもの」とは、以下のいずれかに該当する状態をいいます。
・肩関節が強直してしまい、まったく動かない状態
・肩関節の神経麻痺等によって、(他人の力で肩関節を動かすことができたとしても)自身の意思で動かすことができない状態やこれに近い状態
・人工骨頭・人工関節を挿入し置き換えた関節の可動域が、怪我をしていない側の可動域(正常な可動域の角度)と比べて2分の1以下に制限されている状態
10級10号が定める「機能に著しい障害を残すもの」とは、以下のいずれかに該当する状態をいいます。
・関節の可動域が、怪我をしていない側の可動域(正常な可動域の角度)と比べて2分の1以下に制限されている状態
・人工骨頭・人工関節を挿入し置き換えた関節の可動域が、怪我をしていない側の可動域(正常な可動域の角度)と比べて2分の1以下に制限されていない状態
12級6号が定める「機能に障害を残すもの」とは、以下に該当する状態を言います。
・関節の可動域が、怪我をしていない側の可動域(正常な可動域の角度)と比べて4分の3以下に制限されている状態
機能障害を理由に、後遺障害を認定してもらうポイントとしては、医師や理学療法士から適切に可動域を測定してもらい、後遺障害の診断書に反映してもらうことが大切です。
③神経障害
鎖骨の神経障害に関して定められている後遺障害等級は、以下のとおりです。
後遺障害の等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号が定める「局部に頑固な神経症状を残すもの」というのは、被害者の方の神経系統の障害が、他覚的な所見(MRI画像や各種の神経学的検査)によって医学的に証明することができる場合のことをいいます。
14級9号が定める「局部に神経症状を残すもの」というのは、被害者の方の神経系統の障害が、他覚的には証明することができないものの、医学的に説明することができる場合のことをいいます。
神経障害を理由に、後遺障害を認定してもらうポイントとしては、MRI画像などによる他覚的な所見がない場合には、事故直後から症状固定時まで、症状が一貫して認められるかどうか、症状緩和のために、適切に定期的な通院がなされているか、といった事情が大切になってきます。
4 鎖骨骨折の後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益
鎖骨骨折を原因とする後遺障害が認定された場合、怪我をしたことに対する慰謝料(傷害慰謝料)や、症状固定日までの休業損害などの損害項目に加え、後遺障害を負ったことによる損害項目の請求が可能となります。
後遺障害を負ったことによる損害項目としては、まずは、後遺障害を負ったことに対する慰謝料(後遺障害慰謝料)があります。
また、後遺障害を負ったことにより、労働能力が失われることとなるため、これに対応する将来の収入減に対する賠償(後遺障害逸失利益)についても、請求していくことが可能となります。
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害の等級によって、基準が決められています。
そして、後遺障害逸失利益は、被害者の方の年収に、各後遺障害等級で定められた労働能力喪失率と、労働能力を喪失する期間に対応する数値をかけることにより算出することとなります。
被害者の方の年収や労働能力を喪失する期間は、個別に検討しなければならない事項であるため、この記事では、各後遺障害の等級に対応する労働能力喪失率をご説明いたします。
①変形障害
後遺障害の等級 | 後遺障害慰謝料(裁判基準) | 労働能力喪失率(標準値) |
---|---|---|
12級5号 | 290万円 | 14% |
12級5号に対応する自賠責基準の後遺障害慰謝料は94万円となります。
②機能障害
後遺障害の等級 | 後遺障害慰謝料(裁判基準) | 労働能力喪失率(標準値) |
---|---|---|
8級6号 | 830万円 | 45% |
10級10号 | 550万円 | 27% |
12級6号 | 290万円 | 14% |
各後遺障害等級に対応する自賠責基準の後遺障害慰謝料は以下のとおりです。
・8級6号:331万円
・10級10号:190万円
・12級6号:94万円
③神経障害
後遺障害の等級 | 後遺障害慰謝料(裁判基準) | 労働能力喪失率(標準値) |
---|---|---|
12級13号 | 290万円 | 14% |
14級9号 | 110万円 | 5% |
各後遺障害等級に対応する自賠責基準の後遺障害慰謝料は以下のとおりです。
・12級13号:94万円
・14級9号:32万円
5 適正な賠償金を獲得するための弁護士の活用
後遺障害の認定については、加害者側の保険会社が申請をする「事前認定」という手続と、被害者の方が申請をする「被害者請求」という手続があります。
このうち、「事前認定」では、加害者側の保険会社が、あえて被害者の方のために高い等級を獲得できるように対応したり、有益な資料を積極的に提出したりすることはあまり期待できません。
むしろ、被害者の方にとって不利な資料ばかりが提出されてしまう可能性があります。
また、上記の後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益の項目で自賠責基準の金額も併せてお示ししましたが、交通事故の賠償金の基準としては、大きく分けて自賠責基準・任意保険の基準・裁判基準と、3つに分けることができます。
その賠償金額は、3つの基準のいずれを用いるかにより、大きく異なってきます。
そして、被害者の方の多くは、賠償金額の算出に3つの基準があることをご存知ではありません。
保険会社は、それに付け込んで支払額を少しでも安くしようと、賠償金額が低くなる基準で算出してきます。
適正な後遺障害の認定を受け、適正な賠償額を獲得するためには、交通事故の専門的な知識を有する弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
当事務所では、これまでに、交通事故に関するご相談・ご依頼を多数お受けし、解決実績も豊富にございます。
交通事故の被害についてお困りの方がいらっしゃいまいたら、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。
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交通事故の被害に遭われた方は、大きな肉体的・精神的苦痛を被ることとなります。
また、今後の治療・検査や、後遺障害等級認定、示談交渉・訴訟などの手続について、不安をお持ちになるのが通常であると思います。
適切に検査・治療や諸手続を進めて、適正な賠償金を獲得するためには、できるだけ早く弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士への相談が遅れると、不利な流れで手続が進んでしまうことも考えられます。
当事務所では、交通事故被害者の方からのご相談・ご依頼を多数取り扱っております。
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