1 交通事故による下肢(膝・足)の骨折について
下肢とは、股関節以下の、大腿部・膝関節・下腿部・足関節(足首)、足指の部分を指し、体重を支え、歩行を行なうという重要な役割を持っています。
後遺障害等級認定における下肢は、下肢の3大関節である股関節・膝関節・足関節(足首)から足の甲までの部分を指し、足指の部分については下肢と別で扱われています。
膝関節は、人体で最大の可動関節で、「大腿骨」、「脛骨」、「膝蓋骨」の3つの骨で構成され、大腿骨と脛骨は大腿脛骨関節を形成し、大腿骨と膝蓋骨は膝蓋大腿関節を形成しています。
また、脛骨とともに膝から足首までを構成し、脛骨に対して外側背面を通っている骨を、「腓骨」といいます。
足関節(足首)は、下肢が生み出す力を地面に伝える機能を持っています。
足関節(足首)には、まず「距骨」があり、距骨や「踵骨」(かかと)を含めた足首の真ん中あたりまでの骨をまとめて「足根骨」、足首の真ん中あたりから足指の付け根までの骨を「中足骨」、足指の骨を「趾骨」といいます。
また、足根骨と中足骨の間は「リスフラン関節」と呼ばれています。
交通事故を原因とする下肢(膝・足)の後遺障害については、欠損障害もありますが、ここでは、膝及び足(足首)の骨折による後遺障害として、機能障害、変形障害、短縮障害、神経症状について、解説いたします。
2 下肢(膝・足)の骨折による機能障害(運動障害)
下肢(膝・足)の関節の動きが悪くなったこと(可動域の制限)に関する後遺障害です。
この可動域の制限が生じた関節の数と、どの程度制限されるかによって、後遺障害等級1級6号、5級7号、6級7号、8級7号、10級11号、12級7号が認定される可能性があります。
認定される可能性のある等級と、その障害の程度・内容は、以下のとおりです。
等級 | 障害の程度と内容 |
---|---|
1級6号 | 「両下肢の用を全廃したもの」 〇「下肢の用を全廃したもの」とは、3大関節(股関節、ひざ関節、足関節)の全てが硬直した場合をいいます。 |
5級7号 | 「1下肢の用を全廃したもの」 |
6級7号 | 「1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」 〇「関節の用を廃したもの」とは、以下のいずれかに該当する場合をいいます。 ・関節が強直したもの ・関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの(「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったもの) ・人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの(主要運動が複数ある関節に人工関節・人工骨頭をそう入置換した場合は、主要運動のいずれか一方の可動域が健側の2分の1以下に制限されていれば認定される) |
8級7号 | 「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」 |
10級11号 | 「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」 〇「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、以下のいずれかに該当する場合をいいます。 ・関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの ・人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの |
12級7号 | 「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」 〇「関節の機能に障害を残すもの」とは、以下に該当する場合をいいます。 ・関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの |
※下肢(膝・足)の動揺関節(靭帯の断裂などにより関節が動揺している状態)については、他動的なものであると、自動的なものであるとに関わらず、硬性補装具の装着の程度により、機能障害として、後遺障害等級8級、10級、12級に準じて認定される可能性があります。
※習慣性脱臼(軽い外力で簡単に脱臼する状態)及び弾発ひざ(膝関節の屈伸運動の際に一定角度で抵抗があり、その角度を超えると急にばねのように屈伸できるような状態。膝の半月板損傷を原因として生じるケースが多い)は、機能障害として、後遺障害等級12級に準じて認定される可能性があります。
3 下肢(膝・足)の骨折による変形障害
下肢(膝・足)の骨折による変形(骨折した部分が固まらない、または曲がったまま固まってしまう状態)、偽関節(骨折した部分が固まらず、関節ではないところが曲がってしまう状態)について、その程度により、後遺障害等級7級10号、8級9号、12級8号が認定される可能性があります。
認定される可能性のある等級と、その障害の程度・内容は、以下のとおりです。
等級 | 障害の程度と内容 |
---|---|
7級10号 | 「1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」 〇「偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは、以下のいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とする場合をいいます。 ・大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの ・脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもの ・脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの |
8級9号 | 「1下肢に偽関節を残すもの」 〇「偽関節を残すもの」とは、以下のいずれかに該当する場合をいいます。 ・大腿骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、時々硬性補装具を必要とするもの ・脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、時々硬性補装具を必要とするもの ・脛骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、時々硬性補装具を必要とするもの |
12級8号 | 「長管骨に変形を残すもの」 〇「長管骨に変形を残すもの」とは、以下のいずれかに該当する場合をいいます。 ・大腿骨に変形を残し、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正ゆ合)以上のもの ・脛骨に変形を残し、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正ゆ合)以上のもの ・腓骨が著しく変形し、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正ゆ合)以上のもの ・大腿骨もしくは脛骨の骨端部にゆ合不全を残すもの ・腓骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの ・大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの ・大腿骨または脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの ・大腿骨が、外旋45度以上(股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと)、または、内旋30度以上(股関節の外旋が15度を超えて可動できない)で変形ゆ合しているもの |
4 下肢(膝・足)の骨折による短縮障害
下肢の長さが変わってしまっているケースでは、変わってしまった程度により、後遺障害等級8級5号、10級8号、13級8号が認定される可能性があります。
認定される可能性のある等級と、その障害の程度・内容は、以下のとおりです。
上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さを、健側(障害が無い側)の下肢と比較して測定します。
等級 | 障害の程度と内容 |
---|---|
8級5号 | 「1下肢を5cm以上短縮したもの」 |
10級8号 | 「1下肢を3cm以上短縮したもの」 |
13級8号 | 「1下肢を1cm以上短縮したもの」 |
5 下肢(膝・足)の骨折による神経障害
下肢(膝・足)の骨折により神経が圧迫されるなどして、痛みやしびれが生じているケースでは、後遺障害等級12級13号または14級9号が認定される可能性があります。
認定される可能性のある等級と、その障害の程度・内容は、以下のとおりです。
等級 | 障害の程度と内容 |
---|---|
12級13号 | 「局部にがん固な神経症状を残すもの」 〇画像所見が明確で、その所見と痛みやしびれの原因が合致している場合をいいます。 |
14級9号 | 「局部に神経症状を残すもの」 〇治療状況や症状の一貫性などから痛みやしびれが医学的に説明できるといえる場合をいいます。 |
6 下肢(膝・足)の骨折の後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益
(1) 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的苦痛に対する補償ですが、認定された後遺障害の等級が賠償金の算定基準になります。
下肢(膝・足)の骨折で認定される可能性がある後遺障害等級と、それぞれの自賠責保険の基準と裁判の基準の後遺障害慰謝料は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判基準 |
---|---|---|
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
(2) 後遺障害逸失利益
逸失利益とは、後遺障害によって仕事や家事・育児が制限されることに対する補償です。
逸失利益の金額は、下記の方法にて計算します。
【逸失利益の計算方法】
交通事故前の基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失率は、等級ごとに相場があります。
下肢(膝・足)の骨折で認定される可能性がある後遺障害等級と、それぞれの労働能力喪失率の相場は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
10級 | 27% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
7 適正な賠償金を獲得するための弁護士の活用
交通事故による下肢(膝・足)の骨折では、後遺障害等級認定の申請において、認定される可能性のある等級とその障害の程度と内容が複雑で多岐に渡るため、専門的な知識が必要となります。
また適正な賠償金の獲得においては、裁判の基準を理解して適正な額の請求をすることが必要です。
とくに保険会社が被害者本人に最初に提示する賠償金は、最も低い自賠責保険の基準(あるいはそれに近い金額)であることが多く、保険会社が被害者本人に対して、裁判の基準で提示することは、まずありません。
裁判の基準は、弁護士に依頼した場合にはじめて適用されると言ってよいでしょう。
交通事故による下肢(膝・足)の骨折では、後遺障害等級認定の申請の場面でも、賠償金の請求の場面でも、いずれも専門的な知識が必要となりますので、適正な後遺障害等級認定と適正な賠償金の獲得のために、できるだけ交通事故の経験豊富な弁護士に相談してアドバイスを受けることがよいでしょう。
当事務所では、これまでに、交通事故のご相談・ご依頼を多数お受けし、解決実績も豊富にございます。
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交通事故の被害に遭われた方は、大きな肉体的・精神的苦痛を被ることとなります。
また、今後の治療・検査や、後遺障害等級認定、示談交渉・訴訟などの手続について、不安をお持ちになるのが通常であると思います。
適切に検査・治療や諸手続を進めて、適正な賠償金を獲得するためには、できるだけ早く弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士への相談が遅れると、不利な流れで手続が進んでしまうことも考えられます。
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