手術を受けなかったとしても、直ちに後遺障害認定に不利な影響があるわけではありません。
手術を受けるかどうかは、原則として被害者の自由です。
にもかかわらず、手術を受けなかったことが直ちに後遺障害認定に不利な影響があるとなれば、被害者に手術を強制することとなってしまいます。
そのため、手術を受けるかどうかは、直ちには後遺障害認定に影響しないとされているのです。
一方で、被害者には、交通事故による損害の拡大を防止する義務があると考えられています。
そのため、治療効果が期待できる手術を受けなかったことにより、症状の悪化や後遺障害への影響を招いたような場合には、賠償額が減額される可能性があります。
被害者が手術を受けなかったことに過失があるとして、過失相殺により賠償額が減額となったり、損害の一部との因果関係が否定されたりするおそれがあるのです。
手術を受けなかったことにより賠償額が減額されるかどうかは、手術を受けた場合に期待できる治療効果、手術を拒否した理由の正当性の有無などにより判断されます。
【東京地方裁判所平成24年7月17日判決】
右大腿骨骨幹部の偽関節手術を受けなかった事案で、「偽関節手術は、遷延癒合や偽関節がみられる場合の最も一般的な治療方法ではあるが(中略)、骨折部位を切開して偽関節の表面組織を除去するほか、健常な骨の一部を切除して移植するものであることから、その身体に対する侵襲の程度は小さくない」、「偽関節手術は、必ず骨癒合をもたらすとは限らないし、遷延癒合や偽関節の治療法として絶対的なものとみることもできない」としたうえで、「原告が偽関節手術を受けなかったのは、●●医師の治療方針に基づくものと認められる」などの諸事情を考慮し、「偽関節手術を受けなかったことを理由に、本件事故と本件後遺障害との相当因果関係を否定したり、その範囲を制限したりするのは相当ではないというべきである」、「原告が、後遺障害の発生又は拡大を避けるために偽関節手術を受ける義務を負っていた、あるいは、原告にそのような義務に違反した過失があると判断することはできない。よって、症状固定に関する事情を原因とする過失相殺を認めることはできない」と判断。
【東京地方裁判所平成24年3月16日判決】
右橈骨遠位端骨折について手術の適応と診断され、一旦は手術を受けることとしたもののキャンセルした事案で、「治療(特に手術)は、その性質上、身体への侵襲を伴うものであり、また、その効果の確実性を保障することができないものであるから、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできない」としたうえで、「後遺障害等級表でいえば10級10号に該当するものと認められる」と判断。
一方で、「右手関節の変形癒合(橈骨短縮変形)が生じたのは、原告の右橈骨遠位端骨折が保存的治療では適切な骨癒合が得られないものであり、手術適応であったにもかかわらず、原告が、●●病院においていったんは手術を受けることにしながら、これをキャンセルし、適切な時期に手術を受けず、ギプスによる外固定を選択したことによるものと認められる」としたうえで、諸事情を考慮して「後遺障害等級表10級10号に該当する後遺障害が残存したことによる損害の90%の限度で、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である」と判断。