自営業者の基礎収入は、原則として、交通事故発生の前年の申告所得額を採用します。
年により所得額に相当の変動がある場合には、数年分の平均額を採用することもあります。
年間の売上から経費を控除した利益(所得)を基礎収入とするのが基本です。
利益の中に配偶者など近親者の労働によるものが含まれている場合には、被害者の寄与による部分のみが基礎収入となります。
被害者の寄与割合は、具体的な役割分担、稼働状況、業種などの個別事情を考慮し、判断することとなります。
なお、休業損害の場合とは異なり、申告所得額に固定経費額を上乗せはしません。
なぜなら、事業を継続する場合には交通事故の有無にかかわらず固定経費の支出が続く以上は損害とは言えず、一方で廃業する場合には以後は固定経費の支出が発生しなくなるために損害とは言えないためです。
開業直後であり、まだ確定申告をしていない場合には、交通事故発生前後の利益状況や、前職の所得などを考慮し、基礎収入を検討することとなります。
賃金センサス(政府による賃金統計)の平均賃金を参照すべき事案もあります。
自営業者の事案では、申告所得額よりも実際の所得額の方が高いと主張されることがあります。
このような場合には、実際の所得額を証明することができれば、その金額が基礎収入と認定される可能性があります。
ただし、申告所得額よりも高い基礎収入を主張する場合には、確実性のある高度の証明が必要であると考えられています(大阪地方裁判所平成15年12月14日判決など)。
申告外の所得の主張は、自己矛盾の主張と評価されるものであり、裁判所がその認定に慎重になるのは無理からぬところです。
そのため、収入、原価、諸経費などについて、信用性の高い証拠による十分な立証が必要となるでしょう。
具体的には業務過程で作成される会計帳簿、伝票、領収証・レシートの控えなどの証拠が考えられ、その信用性は文書の体裁、記載内容、作成の経緯などから厳格に判断されることとなります。
なお、交通事故発生後に修正申告をしても、修正申告書の控えを提出するだけでは、修正申告後の申告所得額を基礎収入と認定することは困難であると考えられます。
なぜなら、修正申告後の申告所得額が実際の所得額と合致しているかについて、疑問が残ると考えられるためです。
やはり、上記のように信用性の高い証拠による十分な立証が不可欠と考えられます。