会社・法人の役員報酬は、労務に対する対価の部分と、利益配当の実質を持つ部分とがあり得ると考えられます。
このうち、逸失利益の基礎収入として認定できるのは、労務に対する対価の部分だけとなります。
青森県など地方都市に多い中小の同族企業の場合、経営者が労働能力を喪失したり死亡したりしたとしても、利益配当の実質を持つ部分は支払が継続されたり同族内で引き継がれたりすることも多いと考えられます。
このような場合には、利益配当の実質を持つ部分が失われたとは言えませんので、逸失利益の基礎収入からは除外されることとなります。
役員報酬のうち労務に対する対価の部分が占める割合は、役員の業務内容、役員報酬の額、同種の業務に従事する他の従業員の給与との差、同族企業であるか否か、同族外の役員の役員報酬との差など様々な要素を考慮し、算出されることとなります。
このような考慮の結果、同族企業の経営者の役員報酬の場合でも、全額が労務に対する対価の部分であると判断されることもあり得ます。
また、利益配当の実質部分が誰に引き継がれたかという実態から、役員報酬の全額が逸失利益の基礎収入と認定される可能性もあります。
一方で、大企業の役員などサラリーマン重役の場合には、通常は役員報酬の全額が労務に対する対価であると考えられます。
また、中小の同族企業であっても同族外の役員の場合には、役員報酬の全額が労務に対する対価であると認められることが多いでしょう。
仮に利益配当の実質を持つ部分があったとしても、労働能力を喪失したり死亡したりすれば、遺族に引き継がれるようなことは通常は想定されません。
このような場合には、役員報酬の全額が逸失利益の基礎収入となるでしょう。
【大阪地方裁判所平成21年12月8日判決】
会社役員が会社から受ける報酬には、労務の対価のみならず利益配当等も含まれているところ、損害賠償の対象となるのは労務対価部分と解すべきである。
そして、労務の対価が役員報酬に占める割合は、会社の規模・経営状態、当該役員の職務内容・報酬額、他の役員や従業員の職務内容・給与額等を総合勘案して判断するのが相当である。