傷害慰謝料の算定において、保険会社から「通院が長期にわたり、通院の頻度が少ない」という理由で慰謝料の減額を主張されることがあります。
この点、交通事故による損害賠償額の算定基準を解説した「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)では、「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」と説明されています。
例えば、骨折で1年間通院し、実通院日数が30日であるとします。
この例で通院期間1年間を基準に傷害慰謝料を算定すると、150万円となります。
一方で、通院期間が長期にわたると判断した場合、実通院日数の3.5倍である105日(30日×3.5)程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもあります。
通院期間105日を基準に傷害慰謝料を算定すると、約82万円となります。
このように、「通院が長期」にあたるかどうかで傷害慰謝料の金額に大きな差が出る可能性があるため、どの程度の期間で「通院が長期」と判断されるかが問題となります。
この問題について、明確な回答をしている裁判例はありません。
一方で、同じく交通事故による損害賠償額の算定基準を解説した「交通事故損害額算定基準-実務運用と解説-」(通称:青い本)では、「通院が長期化し、1年以上にわたりかつ通院頻度が極めて低く1ヶ月に2~3回程度の割合にも達しない場合、あるいは通院は続けているものの治療というよりむしろ検査や治癒経過の観察的色彩が強い場合など」は、「通院実日数×3.5が修正通院期間となる」と解説されています。
したがって、「通院が長期」については、「1年以上」というのが一つの目安になると考えられます。
ただし、通院期間が1年以上にわたる場合であっても、通院期間を基準に傷害慰謝料を算定するのが原則であり、通院実日数×3.5の修正通院期間を用いるのはあくまで例外です。
保険会社から「通院が長期にわたり、通院の頻度が少ない」という主張をされた場合には、傷病や症状の重さ、通院頻度が少ない理由などを主張し、精神的苦痛が軽減されるものではないことを反論していくことが大切です。