交通事故により入院を余儀なくされた場合、家族が入院に付き添うことがあります。
このような場合には、入院付添費の請求が認められる可能性があります。
また、入院に付き添うことに伴って発生する休業損害・交通費・宿泊費の賠償も認められる可能性があります。
以下では、どのような場合に入院付添費・休業損害・交通費・宿泊費の賠償を請求できるのかについて、ご説明させていただきます。

入院付添費

入院付添費の請求が認められるのは、入院付添の必要性がある場合です。
入院付添の必要性は、傷害の内容および程度、治療の状況、日常生活の支障の有無および程度、付添看護の内容、被害者の年齢等の事情を考慮して判断されます。

具体的には、以下のような場合には、入院付添の必要性が肯定され、入院付添費の請求が認められると考えられます。

医師から通院付添の指示があった場合。
被害者が重症のため、起立・歩行・体動が困難であり、家族による介助(食事、排泄、着替えなど)が必要となる場合。
被害者が重度の脳損傷・脊髄損傷等により植物状態となっている場合でも、家族の声掛け、容態の見守り、体位変換(褥瘡の防止)・マッサージ(関節拘縮の防止)等が有益である場合。
被害者が高齢者、あるいは幼児・児童(おおむね12歳以下)であるため、身の回りの世話が必要となる場合。

入院付添の必要性が争われる場合には、診療録(カルテ)などの医療記録を参照することや、医師から入院付添が必要である旨の照会回答書を取り付けることなどにより、立証していくこととなります。
また、入院付添をした家族が具体的にどのような看護活動をしたのかについて、日記・日誌に記録しておくことも大切です。

入院付添費の請求が認められる場合、家族による入院付添であれば日額6500円が賠償の目安となります(裁判基準)。
傷病が非常に重篤である場合など、入院付添の負担が特に重いと判断される場合には、1割から3割程度の範囲で増額した入院付添費が認められることもあります。
逆に、身体機能の制約が一部である場合など、入院付添の負担が比較的軽度と判断される場合には、入院付添費の認容額が低めの金額となることもあります。

また、傷病の内容・程度、付添看護の内容から、複数人の入院付添が必要と判断される場合には、人数分または上記よりも高額の入院付添費の請求が認められることもあります。

休業損害

入院付添費の請求が認められる場合で、家族が仕事を休んで入院付添をしたときは、入院付添をした家族の休業損害と上記の入院付添費とを比較して、いずれか高い方の請求が認められます(入院付添費と休業損害の二重取りはできないということです)。
休業損害の請求を行う場合には、入院付添をした家族の勤務先に休業損害証明書を記載してもらう必要があります。

ただし、入院付添をした家族が高額所得者であるなど、休業損害が職業付添人(看護師・介護福祉士などの専門職)の費用を超える場合には、通常、職業付添人を頼めば足りるため、これを超える部分の休業損害の請求は原則として認められないと考えられます。
一方で、職業付添人では家族に代替することができないとする具体的事情を認定したうえで、職業付添人の費用を超える休業損害の請求を認めた裁判例もあります。

交通費・宿泊費

入院付添費の請求が認められる場合、家族が入院付添のために負担した交通費等の実費の賠償は、上記の入院付添費とは別途認められることはないのが原則です。
なぜなら、家族による上記の入院付添費は、入院付添に伴う交通費、雑費、その他入院付添に必要となる諸経費を含むものと考えられているからです。

一方で、被害者が交通事故で重傷を負ったため、遠隔地に居住する家族が被害者のもとに入院付添に赴くというケースがあります。
このようなケースでは、その家族が入院付添のために被害者のもとに赴くことが、被害者の傷害の内容および程度、その家族が入院付添に当たる必要性などの諸般の事情から社会通念上相当である場合には、通常利用される交通機関の普通運賃の限度内で、交通費の請求が別途認められると考えられています。
そして、このようなケースでは、相当額の範囲で宿泊費の請求も別途可能であると考えられます。

この点、女子小学生の被害者が頭蓋骨骨折などで約61か月の入院を余儀なくされた事案で、母親・叔母・祖母の入院付添のための交通費として、合計約478万円の賠償を認めた裁判例があります(札幌高等裁判所平成13年5月30日判決)。

交通事故に関するQ&A一覧

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