通院交通費の請求が認められるのは、原則として自家用車(ガソリン代相当額)またはバス(運賃)等の公共交通機関による通院にかかる費用となります。
タクシーによる通院交通費(タクシー代)の請求が認められるのは例外的な場合であり、タクシーの利用が相当と認められる事情が必要です。
タクシーによる通院交通費の請求が認められる場合
タクシーの利用が相当とされ、タクシーによる通院交通費の請求が認められるのは、例えば、以下のような場合です。
【タクシーの利用が相当と認められる場合】
□他の交通手段による通院が困難または著しく不便な場合
□下半身を骨折等したため、歩行が困難な場合
□公共交通機関を使用することが精神的苦痛となる場合
□医師の指示がある場合
タクシーによる通院と自家用車・公共交通機関による通院とでは、通院交通費の金額に大きな差が出てしまいます。
そのため、上記のような事情が認められなければ、タクシーによる通院交通費の請求は認められないと考えられています。
タクシーによる通院交通費が認められた裁判例として、次のようなものがあります。
【裁判例①】
通院に公共交通機関を使用しようとすれば、自宅から1時間かけて徒歩で駅まで出なければならず、タクシーの利用はやむを得なかったとして、タクシーによる通院交通費の請求を認めた(大阪地方裁判所平成7年3月22日判決)。
【裁判例②】
交通事故により対人恐怖、外出困難等の症状が生じた専門学校生(女性)について、タクシーによる通院交通費の請求を認めた(神戸地方裁判所平成13年12月14日判決)。
【裁判例③】
右大腿骨開放骨折、右脛骨高原骨折(開放性)等の傷害を受けた兼業主婦について、タクシーによる通院交通費の請求を認めた(東京地方裁判所平成14年3月22日判決)。
【裁判例④】
外貌醜状(後遺障害7級12号)の短大生(女性・20代)について、下肢を負傷したものではなく、公共交通機関による通院が不可能であったわけではないものの、顔面を負傷しており人目をはばかる心情も理解できることを考慮し、タクシーの利用が不相当であったとまでは言い難いとして、タクシーによる通院交通費の請求を認めた(大阪地方裁判所平成26年3月27日判決)。
タクシーによる通院交通費の請求が認められる期間
タクシーによる通院交通費の請求が認められるとしても、必ずしも全額の請求が通るとは限りません。
タクシーの利用が相当と認められる期間の部分に限り、タクシー代の請求が認められ、それ以外の期間の部分の請求は認められないというケースもありますので、注意が必要です。
例えば、下半身の症状等のために自家用車・公共交通機関による通院が困難であり、当初はタクシー利用の相当性が肯定される場合であっても、治療を続けるうちに症状が改善し、自家用車・公共交通機関による通院が可能となることがあります。
このような場合には、自家用車・公共交通機関による通院が可能となった段階以降については、タクシーによる通院交通費の請求は認められないでしょう。
タクシーによる通院交通費を請求する場合に必要となる証拠資料
タクシーによる通院交通費を請求する際には、証拠資料としてタクシー代の領収証が必要となります。
通院にタクシーを利用した際は、必ず運転手から領収証を受け取り、乗り降りの場所をメモするなどしたうえで、保管しておくようにしましょう。
タクシーによる通院交通費の請求が認められなかった場合
タクシーを利用して通院したものの相当性が否定され、タクシーによる通院交通費の請求が認められなかった場合でも、交通費の請求が一切認められないわけではありません。
この場合には、原則どおり、自家用車(ガソリン代相当額)またはバス(運賃)等の公共交通機関による通院にかかる費用の範囲で、通院交通費の請求が認められます。
通院にタクシーを利用する場合のポイント
通院にタクシーを利用する場合には、通院の段階でタクシーを利用する旨を保険会社に伝え、タクシーの利用が相当である理由についても十分に説明するようにしましょう。
タクシーの利用を保険会社に伝えずに通院を続け、後々示談交渉の段階で保険会社にタクシー代を請求しても、対応してもらえない可能性があります。
また、怪我の程度が重くタクシー利用の相当性が明らかな場合などには、保険会社が提携先のタクシー会社のタクシーを手配してくれることがあります。
そうなれば、タクシー代を支払わずにタクシーで通院することができるようになります。