交通事故により入院した場合、家族が病院に見舞いに訪れたり、遠方から駆け付けたりすることがあります。
そして、このような家族による見舞い・駆けつけのための交通費の請求が認められるのか?が問題となることがあります。
この点、家族による見舞い・駆けつけのための交通費は、一般に入院雑費(裁判基準では、入院1日当たり1500円の賠償が認められます)に含まれると考えられており、別途交通費として請求することはできないのが原則です。
しかし、家族が交通事故で怪我をした時に、一刻も早く駆けつけて様子を確認したいというのは、当然の心情であると言えます。
また、家族による見舞いは、被害者を励まし、心の支えとなり得るものです。
このような観点から、家族による見舞い・駆けつけが家族の心情として相当(合理的・通常)であると言える場合には、見舞い・駆けつけのための交通費の請求が認められます。
家族による見舞い・駆けつけの相当性の有無は、被害者の傷病の内容および程度、見舞い・駆けつけに訪れた家族と被害者との人間関係などの事情から判断されます。
被害者の傷病が重篤なものであり、見舞い・駆けつけに訪れた家族と被害者の関係が近しく親密なものであれば、見舞い・駆けつけのための交通費の請求が認められやすいでしょう。
ただし、家族による見舞い・駆けつけのための交通費として認められるのは、通常利用される交通手段の普通運賃の範囲に限られます。
また、相当(合理的・通常)と認められる見舞いの回数の範囲に限り、交通費の請求が認められると考えられます。
【東京地方裁判所平成8年3月13日判決】
上下顎骨骨折、頚椎圧迫骨折、全身打撲の被害者(大学生)が東京の病院に入院した事案で、両親が事故発生を知って大阪から駆けつけた際の高速道路料金およびガソリン代約3万7000円の賠償を認めた。
また、両親・叔母・妹が見舞いのために大阪から20回上京した際の交通費のうち、8回分の約24万円の賠償を認めた。
【東京地方裁判所平成10年1月30日判決】
頭蓋底骨折、脳挫傷等の被害者が787日間入院している間、両親が高速道路を利用して自動車で120回以上見舞いに病院を訪れた事案で、40回分の東京・群馬間の高速道路料金約24万円の賠償を認めた。
【札幌地方裁判所平成13年12月5日判決】
脳挫傷、くも膜下出血等の66歳の被害者(後遺障害1級3号)が266日間入院している間、子が78回見舞いに病院を訪れた事案で、被害者の症状(意識不明から回復後、認知障害、失禁等)を考慮し、78回の見舞い全てについて北海道旭川市・北海道石狩市間の電車およびバスの利用料金分(1回当たり7800円)の賠償を認めた(合計約60万円)。
本件では、実際には78回の見舞いのうち、52回は約3時間かけて自動車で見舞いに行ったものであり、ガソリン代や高速道路料金が1回当たり1万2000円必要であったが、時間・距離を考慮すると電車およびバスの利用が合理的であったとして、電車およびバスの利用料金1回当たり7800万円の限度で賠償が認められている。